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第52話 白熱する試合

 一日置いて再開された闘技大会準々決勝。舞台は綺麗に整えられ、わたしが亀裂を入れた事で、舞台上を覆う結界は更に強化されていた。何やら他国の王族や貴族達の座る来賓席、お姉さまが座っている特別席も同様に強化されているみたい。時が来るまでは大人しくしておいた方が良さそう。


 変装した状態でジズさんとわたしは観戦。そして、準々決勝からは警備強化のせいか、お付のララさんも選手控室には入れなくなったらしく、一緒に観戦する事となった。


「ミルフィーユ様。昨日は感動しましたですの!」

「あ、ありがとうキララ」


 ララさん、試合の事は伏せて、ソルファとの一戦を言ってくれているみたい。互いに偽名で呼び合うわたしとララさん。こうしてレイの登場を待ちつつ、わたし達は準々決勝残りの三試合を三人で観戦する事になった。


「さて、白熱の準々決勝。一日お待たせしましたが、舞台も整いました。準々決勝第二試合、西門から登場はぁ~、ソルファが居なくてもオレが居る。レッドドラゴンにキングリザード……討伐した超級の魔物は数知れず。王国最強の魔物狩人モンスターハンター、バトラス・ウエストリバー!」


 あの兎さん……ソルファ呼び捨てにしちゃってるよ。余程、とっかえひっかえが頭に来たんだろうな。


 バトラス・ウエストリバー。流石、民間からの出場だけあって、会場からの声援が熱い。王国にとってみれば、王国最後の砦なのだ。短い菫色の髪を立たせた大男は、肩当てと胸当て胴当て以外の部位は鍛え抜かれた筋肉を剥き出しにしている。背中に背負っている武器は……あれは何だろう?


「続いて東門から登場は、ドワーフの国ノルマンディアからの参戦。斧使いとして右に出る者は居ない歴戦の戦士、ガンダール・ガイア・フォルストイ!」


 わたしよりも身長が低いガンダール。ドワーフだからきっとかなりの年齢なんだと思う。頭には兜、顔を覆う髭に斧を持った姿は如何にもドワーフといった印象。結構有名な人物らしく、他国からの参戦にもかかわらず声援は大きかった。


 そして、実況ピーチの合図の下、試合開始の鐘が鳴る。


「え? 鉄球?」


 バトラスの背中に背負っていた武器は鎖につながれた鉄球だった。あんな武器があるなんて初めて見た。重そうな鉄球を軽々と高速回転させ、バトラスはガンダールへ向けて走る。が、ガンダールが自慢の斧を舞台へ振り下ろした瞬間、舞台が隆起し、尖った岩がバトラスへ迫って来た。しかし、彼は止まらない。止まるどころか加速した彼は、迫る岩を鉄球で砕き、ガンダールへ向けて放つ。


 激しい金属音と共に、鉄球は斧に弾かれる。どちらも重量武器なのにも関わらず、互いの武器を高速でいなし、弾く。熟練の武器捌き。これが闘技大会準々決勝なんだ。


「す、凄いわね……」

「いえ、ミルフィーユ様も充分お強いかと」


 この両者の内、残った相手とわたしが準決勝で対戦したなら、果たして勝てただろうか? それほどまでに二人の戦士は強かった。


「レッドドラゴンを屠ったこの鉄球に、撃ち破れぬものはなし! ――竜牙粉砕迅カドモス=カタストロフ!」

「戦斧無双――大地讃頌撃ブラキオインパルス


 二つの衝撃が中央でぶつかり合い、粉塵と土煙の中、最後まで立っていたのはバトラスだった。ドワーフのガンダールも、戦斧の攻撃に土属性の魔力を織り交ぜていた。バトラスの鉄球が僅かにガンダールの斧の破壊力を上回った事による差。試合後、会場から白熱した試合を繰り広げた両者へ拍手が贈られる。


 わたしの時と同様、抉られた舞台はどうするのだろうと思っていたんだけど、今回は予め舞台に土属性の魔法をかけていたらしく、なんと抉られ、隆起した舞台は一瞬にして修復された。魔法って便利ね……って、わたしの時も最初からそうして欲しかった。だって、なんかわたしだけ修復できない規模の舞台破壊をした魔女みたいじゃない? 


 続いて第三試合。魔国より遥か東。サザナミの国と呼ばれる国から来た女刀剣士サザメ・クレナイ。黒髪に鳶色の瞳。長い髪を後ろで束ね、何やら独特の装束を身に着けている。


「あれは忍び装束と言いますの。サザメさん、密偵の間では有名で、キララの憧れですの」

「キララ、そうなのね」


 対するはエルフの国シルフィリアから出場の女エルフ、レヴィ。特徴的な長い耳。白磁色の肌と淡翠エメラルド色の双眸ひとみと髪がとっても綺麗。武器への属性付与エンチャントと言って、風属性の魔力を弓矢に付与し、威力を上げて放つのが得意らしい。


 第二試合が力と力の衝突ならば、第三試合はわざわざ。高みまで清廉された互いの技量をぶつけ合う戦闘は研ぎ澄まされており、瞬きしている間に姿を見失ってしまう程の攻防が繰り広げられていた。 


「速すぎる……あんなの……どっちも躱し切れない」

「東国一の密偵として有名なサザメ・クレナイと、シルフィリアの右腕と呼ばれるレヴィ。どちらが勝ってもおかしくない試合です」


 四方八方より放たれる風の矢を刀と呼ばれる刀剣で弾き、高速の剣戟でいなす。時折、放たれる刀の技も美しく、放つと同時、舞台上に華が舞っていた。


「サザナミ流刀剣術――藤霞フジカスミ


 菫色の幻想的な華が吹雪のように舞い、サザメさんの姿がその場から消える。霞がかった舞台。レヴィさんは冷静に目を閉じ、風を纏った腕で迫る刃を弾く。……が、霞が晴れた瞬間、背中を斬られていたレヴィさんが片膝をついていた。


「まだだ、この程度の傷」


 彼女が風を纏う掌で背中に触れた瞬間、双眸ひとみと同じ色の光が背中を包み、なんとレヴィの傷が塞がっていく。まさか、この感じ……女神さまの加護ではない。あの〝治療〟魔法は……何?


「風精霊シルフィーユの……つまり〝精霊の加護〟による治療魔法ですね」

「聖属性の魔法じゃなくても回復出来るんだ」


 回復させる間、黙ってその様子を見ていたサザメさん。立ち上がったレヴィさんを見て……何故か笑っていた。


「良きかな。そう来なくては。わっちはまだ技の半分しか出していないぞよ?」

「では、あなたが技を出す前に、ワタクシメが終わらせる事にしましょう」


 刹那、レヴィさんの雰囲気が変わる。淡翠エメラルド色の光が身体全体を包み込んだ瞬間、長く美しい髪は纏う風で靡き、手に持った弓矢から神聖な神々しい光が放たれていた。


「行きます。――風精霊の息吹シルフィーユ=ブレス


 魔力の塊のような光をレヴィさんが弓から放った瞬間、光の矢が舞台上空へと昇っていく。そして、上空の結界まで到達した瞬間、舞台上、全てを埋め尽くす光の矢が上空から五月雨のように降り注ぐ。


 無数に降り注ぐ光の矢に、サザメさんの姿が見えなくなる。眩い光に視界が遮られ、舞台が衝撃と共に揺れる。風の魔力を極限まで圧縮した事による最高密度の光の矢。これを回避する事はきっと不可能だ。わたしはそう思っていた……んだけど。


「こ……これは、どうした事か!? サザメ選手の姿が舞台上から消えています……ああっ!」

 会場がどよめく。レヴィさんの影が揺らいだかと思うと、影が実体を持ったかのように人の形を成していき、そこからサザメさんの姿が出て来たのだ。


「サザナミ流影踏術えいとうじゅつ――影現カゲウツシ

「ば、馬鹿な……」

「サザナミ流刀剣術――霞桜カスミザクラ


 影から顕現したサザメさんが刀剣を振るった瞬間、東国で有名な桜と呼ばれる華が舞台上に舞った。斬りつけられたレヴィさんはゆっくりと舞台上に倒れ、鮮血と桜が舞う舞台にエルフの弓使いは儚く散っていく。


 こうして美しく華やかな戦いは、東国の女刀剣士、サザメ・クレナイの勝利で幕を閉じるのだった。


 そして、いよいよ第四試合はレイの登場。レイの勇姿、気合を入れて見届けなければ。 



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