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第41話

       41


 ぱっと目を開くと、薄暗くてだだっ広い空間が映った。同時に身体の上方に気配を感じ、すかさずシルバは横に転がった。

 脇腹をカイオの靴裏が掠めて、軽く痛みが走った。しかしシルバは堪えて立ち、再びカイオと相対する。

(戦闘中にカイオが手を緩めるとは考えづらい。気絶していた時間は、ほとんど一瞬か。ジュリアとの会話は、そこそこ長かったってのにな。白昼夢っつぅのか、つくづく謎めいた現象だった。――ジュリアに会えて、良かった)

 緩やかな想起の後に、シルバは右手を眼前に掲げ、身体を「く」の字に折った。少し先ではカイオも似た体勢でいる。

(ジュリアの主張はもっともだ。カポエィリスタ以外の動きや、齧っただけのテコンドーの影響で、大事な大事な本質が心の底に埋もれていた。そんな様じゃあ、カイオに勝てるわけがない)

 思考を切り上げたシルバは、カイオに先んじてジンガを始めた。リズミカルに、ダイナミックに。頭の中で鳴り響くは、盛大なるカポエィラの演奏。

 同じテンポでジンガをする二人は、ゆらゆらと接近した。一歩の距離まで至り、カイオがさらに前に出てくる。

 左後方に両手を置いて、シルバは後ろ向きになった。足をぐんと持ち上げて、両の踵でカイオを狙う。

 腿の裏に当たった手応えを得つつ、シルバはハンド・スプリングをした。とんっと着地しカイオを見ると、ちょうどバランスを取り戻すところだった。

 ぐっと瞬間的に力んだ直後に、シルバはその場で跳躍。全身を地面に平行にしてから、ぎゅんっと身体を横回転させる。カイオはまだ遠く、純然たるフロレイオ(華麗さのためのカポエィラ)だった。

 血の滾りを止めようともせず、シルバは一層強靭なジンガを始めた。再び間合いが縮まって、カイオの右足がぴくりとする。

 即刻、シルバは真右に手を突き、カイオのベンサォンをぎりぎりで避けた。ふわりと側転を決めて、頂点で静止。下半身を畳んで、直角に両足を押し出す。アウー・コイサ。ジュリアの得意とする技が、自然に出た形だった。

 ドン! 厚い胸板を押す感覚を得て、シルバは足を引いた。

(やれる、勝てる。俺にはジュリアが付いている! ジュリアの思いを背負ってるんだ! 負けるはずなんて絶対にない!)

 立位に戻ってカイオを見据え、シルバはさらなるカポエィラの嵐に己を浸していく。

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