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第38話

       38


 シルバの背丈の倍ほどあった距離は、見る見る埋まっていった。

 二歩分の位置まで来たところで、カイオがぬっと一気に歩み寄ってきた。身体を横向きにしてマルテーロゥ(横蹴り)を放つ。

 重くも速いキックが、胸の高さに飛んでくる。

 シルバは顔を左に避けつつ、肘を九十度にした右腕を払った。上腕で足の内側を捉え、軌道を変える。

 が、ジュッ! 通過の瞬間、小さく音がした。

(蹴りの摩擦で熱、だと?)

 驚愕をどうにか収めて、シルバはホレーで左に移った。身体を沈めて右手・左足立ちになると、ぐんっと跳んだ。大きく縦に弧を描いて右、左。スピーディーに足を振り下ろす。

 蹴り足を戻したカイオは、機敏にしゃがんだ。地面擦れ擦れまで身体を低くし、連続キックを掻い潜る。

 間髪を入れずに、カイオが左脚をにゅっと伸ばしてきた。シルバの右手にぶつかり、強い横の力が加わる。

 バランスを崩し、シルバは仰向けに倒れた。かはっと一瞬、息が詰まる。

 瞬間、シルバの背中に、ぞわっと得体の知れない感覚が生じた。シルバは起立を諦めて、這って身体を大きくずらした。

 ゴガッ! すぐ近くで音がして、シルバは両手で上半身を支えた。今度こそ立ち上がり、さっと振り返る。

 カイオは、片足の曲がった長座前屈の姿勢だった。だがすぐに左手を突き、のそりと起き上がった。足元の土は踵の形に抉れている。

(キレもパワーも、桁が違う、か。噂に違わぬ怪物だな。が、勝機はある。なけりゃあ創り出すまでだ)

 冷静に決断したシルバは、腰を落とした。やや離れた場所のカイオも、応じるように構えを取った。

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