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テンガが掻き消えてすぐ、茶色の天井から男が下降してきた。数秒も経たない内に着地し、シルバは注視をし始める。
男の服装は、半袖シャツと、コルダォン付きの長ズボン。今のシルバと同じだが、色はどれも炎のように鮮やかな赤だった。シャツの中央には、白抜きで六芒星を主体とした図形が模られている。
胸板は恐ろしく分厚く、身体つきは筋骨隆々そのものといった風である。
圧迫感のある体躯、真っ黒な顔に縮れた短髪。男の異様は、生物としての根本の違いすら感じさせた。
男はゆらりと前傾姿勢を取った。丸太のような右腕を顎の辺りに据えて、びたりと静止する。
(無敵のカポエィリスタどころか、史上最強の格闘家とも名高いカイオ。とうとう出て来やがった)
プレッシャーに打ち勝つべく、シルバは呼吸を整え始めた。背後では、リィファとフランが立ち回る足音が続いていた。
先ほどちらりと見た時には、フランの髪は白色に変わっていた。気掛かりではあるが、加勢をしてやる余裕は現在のシルバにはない。
(頭の出血に、連戦による疲労と負傷。今の俺は、まさしく満身創痍。けど勝つ! 倒す! 最後の亡霊をぶちのめして、天下無双の救世主になる!)
内的世界で激しく吠えて、シルバは素早く身構えた。
「一般検体Bことカポエィリスタ、シルバ。目の覚めるような奮闘で、ここまで辿り着きました! 最後の試練は伝説の超越! さあ、
楽しげな煽りが響き渡って、二人は同時にジンガを開始した。