目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第34話

       34


 リィファが戦闘態勢を取ると、フランは通背拳の構えになった。先ほどと同じく両掌が眼前に縦に並んだポーズだが、より低姿勢だった。

 不気味さを押して、リィファはフランに向かっていった。大袈裟な左の正拳で注意を惹いて、視野の外で左足を動かす。脛蹴りを本命に据えたフェイント技である。

 見切った風にすうっと、フランは摺足で一歩退いた。リィファの攻撃は、どちらも不発に終わる。

 滑るような動きで、フランはリィファに寄せ返した。

 出たままの左手は、右で外へと払われる。慌ててリィファは右手を振り抜く。だが当然のように掴まれた。

 フランはぐっと、左足を進めてきた。同時に右腕が押されて、リィファは半身の体勢にさせられる。

 たちまち手刀が放たれて、左上腕の内側に刺激が走った。顔を顰める暇もなく、リィファは同じ手で頬を張られた。そのままぱんぱんと、凄まじい速度の往復ビンタが飛ぶ。

 両頬に鋭い衝撃が何度も加えられる。頬の痺れは凄まじく、リィファは左、右とおもちゃのように顔を振らされる。

(くっ! このままじゃ……)

 朦朧とする意識を奮い立たせ、リィファは七発目で顔を引いた。鼻の先端の擦れ擦れを、フランの指先が通過していく。

 逃れたリィファは、掌を上にした右手を肩の上方に遣った。びゅんっと鋭く加速して、フランの首を狙う。

 フランは、緩く握った両手を素早く下に動かした。リィファの手刀を難なく撃ち落とす。

 一瞬の後に、フランの身体が沈み始めた。頭が腿の位置まで来るや否や、伸ばした左足でぐりっと右足を踏んできた。鈍い痛みに、リィファは足を引く。

 迷いのない所作で、フランは身体を跳ね上げた。股間、顎と、右足と右拳による淀みのない連撃がリィファを襲う。

「鷹爪翻子拳を、痛覚で優位を奪うだけの体系だと考えないでね。貴女に降り掛かる現実は、そんなに優しいものではあり得ないのよ。神星との縁を断とうとする罪はそれほどまでに重いの」

 どこまでも甘美な呟きが、上を向くリィファの耳に届いた。リィファは目だけを下に遣り、フランの次なる攻めの把握に努める。

 フランは機敏なモーションで、両の手を耳の横に置いた。軽く浮かしていた右足を、速く大きく前に移す。

 振り下ろされた左右の拳が、リィファに襲い掛かった。命中の瞬間、フランの手首に捻りが加わる。

 特大の衝撃が、脇腹に来た。またしても吸気の間の攻撃だった。

 リィファは無抵抗に倒れていき、後頭部を強打した。閉じかけの視界の中心では、フランが悠然と笑んでいる。

(……立たなきゃ。立ってあいつを止めなきゃ)

 気力を振り絞るリィファだったが、意志とは無関係に手足はひくつくのみだった。もはや全身、傷まない箇所はなかった。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?