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シルバとテンガの激闘の一方で、リィファは、白髪のフランと対峙していた。死の宣告からややあって、フランはおもむろに身構えた。軽く握った右手は腰に、開いた左手は真っ直ぐ、肩の高さに据えている。
フランの引き裂くような笑顔に、リィファは強い圧力を感じていた。
(大丈夫。わたしは勝つ。必ず勝てる)と自己暗示のように繰り返しつつ、飛び込むタイミングを計り続ける。
ふぅっと、リィファは長い吐息をした。が、終わる間際、フランの身体がぶれた。
ぱんっという音が自分の顔からした途端、頬がびりびりし始めた。フランの、電光石火の攻撃の結果だった。リィファは堪らず、後ろに仰け反る。
(一足飛びからの、掌底での攻撃。意識の死角を突いてくる上に、あの超スピード。……反応が間に合わない!)
混乱しながらも、リィファは姿勢を制御した。だが、視野のどこにもフランの姿はない。
「見えなかったかしらね。
歌うような声が背後からして、リィファは振り返った。
余裕の佇まいのフランは、少し遠くに立っていた。縦にずらして重ねた両腕を、斜め上に置いている。
リィファが僅かに動くと同時に、フランも前に出た。上半身を先行させ、鞭のように手の甲を撓らせてくる。
刺突を横に掻い潜り、フランはリィファの額を打った。額を鋭く打たれて、リィファはくらりとくる。
「三つ目、
どこまでも愉快げに、フランは呟いた。
(そんな。八卦掌だけでも手一杯なのに、二つも積まれちゃあ対応が……」
「四つ目。
フランがゆらりと始動して、遮二無二リィファは構えた。今度はどうにか動きが追えた。右の張り手で、フランの顔面を迎え撃つ。
左手で受けたフランは、すぐさま手首を抓んできた。フランが爪を立てる。五指がリィファの、肌にめりめりと食い込んでいく。
(ああっ!)常識外れの痛みに、リィファの思考が飛んだ。握った右手を引き込んで、フランは蹴りを放った。
ガスッ! 鳩尾にまともに入った。痛みに加えて、強い吐き気がリィファを襲う。
二ヶ所の激痛に朦朧としていると、フランはさらに引いてきた。同時に足を払われ、見事に投げられる。
背面の全体に疼痛を得つつ、リィファは自ら転がって逃れた。よろよろと立ち上がって顔を上げると、フランが凄惨な笑みで見返していた。