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第30話

       30


 シルバがウォルコットを倒した後も、二人の闘争は続いた。投げ、蹴り、突き、打ち込み。フランはどれにおいても、正確無比かつ変幻自在だった。気を張り続けるリィファは、しだいに精神の疲弊を強めていく。

 近接間合いのフランは、脛を狙った腿法ウーファ(蹴り技)を放ってきた。リィファはとっさにくるりと反転。大股で二歩引いてから、素早くフランに歩み寄った。勢いをそのままに、左手を突き込む。

「上下換掌ね。小癪」

 フランは詰まらなさげに呟き、腕で捌いた。即座に歩を進め、肘打ちをしてくる。

 為す術もなく、リィファは腹部に食らった。内臓が凹むような不快な感覚を得ながら、リィファは一つの事実に思いが至る。

(……くっ! ……まただ。また、息を吸う瞬間にやられた。もう間違いない。衝撃に弱いタイミングを狙って攻撃をしてきてる。「力」を使ってないとしたら、とんでもない腕前だ)

 焦燥を加速させながら、リィファは左足を擺歩で進めた。左拳が飛んでくる。頭を振り、被害を掠めるだけに止める。

 軽く身体を沈めて、フランの後ろに回り込んだ。右の手刀を脇に遣ると、フランは手首で受け止めた。

(よし! わたしの得意な流れ!)

 確信をしながら、リィファは右手を上に持っていった。フランの左腕は万歳状態。掌底で今度こそ脇を打つ。

 フランは微かにぐらついた。両腕で左手を制しつつ、リィファは右回転。捻りの力も利用して、肘を腹にぶつける。

 まだ連撃は終わらない。リィファは右手を抜いてきて、後頭部をはたいた。フランの左足に右足を密着させた状態で。

 フランは綺麗に払い倒され、ぐるんと前方に円転した。

 フランはもろに頭から落下し、ゴッ! 鈍く痛々しい音を立てて、地面に転がった。リィファははっとして静止し、横向きで伏すフランを見遣る。

(……やっちゃった。今の落ち方は、まずい。……あ、でも。さっき確か不死って話して……)

「随分と調子付いてくれるわね」

 平坦で、鈴を転がすような美しい声が、リィファの思考に割り込んだ。

 直後、フランは立ち上がり、リィファの瞳を覗き込んだ。口元に浮かぶ柔らかな微笑は、一見優しげでさえある。

「だけど嬉しい。この域にまでは来てくれて。なにせ私は不死。永い人生には、相応の享楽が不可欠なの」

 穏やかな言葉が切れると同時に、フランの髪はふっと白色に変わった。永久不変を予感させる、あまりにも白過ぎる白だった。

「お見せした八卦掌は、目覚めた時から身に付けてたの。だから、ここまでは純然たる余興。今から披露する体系は、神星からの神告オラクルを受けて私が編み出した物。天国への餞には似合わしいから、安らかに逝ってくれて結構よ」

 疲労の蓄積を痛感しつつも、リィファはどうにか、迎え撃つ準備を整えた。

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