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第27話

       27


 シルバの眼前でウォルコットは急停止。右膝を胸まで引き上げたかと思うと、びゅん、と足を伸ばしてきた。

 シルバは一歩引いて避け、ウォルコットの全身を見据える。

(シンプルなアプチャプシギ(前蹴り)だが、そこは伝説の武闘家。予備動作が極小で隙がねえ。残り二人のために体力を温存しておきたかったが、全力で飛ばさざるを得んな)

 同じく蹴りを主体とする格闘技として、シルバは学生時代、テコンドーも一通り学んでいた。ゆえに、ある程度はウォルコットの動きが解析できた。

 ふうっと息を吐き、シルバはジンガで接近する。

 斜め前に突いた左手で身体を支え、ふわりと跳躍。折り曲げた状態から、一気に膝を伸ばした。

 右足が勢いよくウォルコットに迫る。しかしウォルコットは、左手ですっと払った。すぐさま身体を後方に倒すと、びしりと蹴り返してくる。

 攻撃時とは真逆の動きで着地し、シルバは回避した。躱される予測は立てており、ウォルコットの動きは想定の範囲内だった。

 だがウォルコットは、けんけんの要領で前進。一度膝を曲げてから、さらに高速な蹴撃をしてきた。

 驚愕を得るや否や、シルバの顎に足の裏がぶち当たった。ごっと頭のどこかで音がして、シルバは後ろに倒れた。

 どうにか両手を突いて、ブリッジをした。そのまま後ろに回転して足を回す。

 あわよくばのカウンターは、空を切った。

 後方に逃れたシルバは、すばやく立ち上がった。ウォルコットは構え状態で、無機質な視線をシルバに向けている。

(スライド・ステップからの、連続ヨプチャチルギ(横蹴り)。骨の髄まで洗練され尽くした動作だ。……まだ足りねえ。もう一個、俺は俺を上のステージに上げる必要がある!)

 闘志を高めたシルバは、先ほどより躍動的なジンガを開始した。

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