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「わたしがあいつを引き付けます。先生はまずは、あの武器の排除に専念してください」
すぐ隣まで来たリィファが、真剣な調子で囁いた。
苦々しい思いのシルバは、リィファに渋い顔を向けた。
「駄目だ。お前が犠牲になるような戦法を、採るわけにはいかない。言っただろ。二人とも無事に日常に帰還する、って」
力を籠めて返すと、リィファは確かな眼差しを返した。
「わたしの攻撃が当たったって、あいつには大したダメージはありません。だから、囮作戦が最善なんです」
瞳の奥を覗き込むような視線に、シルバは言葉を失った。するとリィファは、ふわりと元気づけるように笑んだ。
「大丈夫。わたしは絶対、絶対、生きて地下を出ます。先生に一生、後悔させたくなんかないもの。ジュリアちゃんの分まで、あなたとずっとずーっと一緒にいます」
誠実な声音が優しく耳に響き、シルバは表情を緩めた。
「ああ、わかった。どんな手を使っても、奴の隙を突いてやる。……にしても情けない。俺は、年下の女子に助けられてばっかだな」
思わず感慨を零し、シルバは黒服の物体を直視した。
すると黒服の身体が徐々に透け始め、中から茶色の短髪の青年が現れた。
持っていた棒は、どこかに消えていた。鮮明な青の道着は四肢を完全に覆っており、腰には黒の帯が巻かれている。
(……建国の功労者の一人、ウォルコットだと? 百五十年近く前の人物だぞ? 死人の復活も、奴らの技術の賜物ってわけかよ。……というか、黒服での出現には何の意味があったんだ? 隅から隅までふざけてやがる)
焦燥と憤りを得ながらも、シルバは構えた。
ウォルコットは左前の姿勢で、握った拳を胸の前に持ってきた。黒く茫洋とした瞳は、心を感じさせなかった。
意志を固めたシルバは、動き出そうとした。
その瞬間、「止まりなさい」と、流麗で高い、歌の一節のような声が後ろからした。シルバとリィファは、同時に振り向いた。
そこにはフランが、以前に出会ったままの形で悠然と立っていた。二人に向かって、深く鷹揚に笑んでいる。