21
「ラスターか、何の用だ? 昨日の件の恨み言なら、全くの筋違いだろ。訳の分からん理屈で濡れ衣を着せられそうになったら、誰でも抵抗するっての。それか、また『あの方』とやらの指示で、リィファを捕まえに来たのか?」
不審を抱きつつも、シルバは落ち着いて問うた。すぐにラスターはいつもの嬲るような笑みになる。
「いやいや、もうあの方は関係がねえよ。今の俺は、民主主義の体現者。か弱いか弱い民衆の、正義の守り手ってわけだ」
余裕たっぷりの抑揚とともに、ラスターは嘯いた。群衆が生むピリピリした空気が一層強くなる。
「昨日の襲撃事件は、空前絶後の大惨事だったよなぁ。反則的な強さの連中の襲撃で、国民の六割は怪我をした。犠牲者だって少なくねえ。
で、誰もが抱いてる疑問はだな。『連中のお仲間のお前ら二人は、な・ん・で当然のようにこの国にいるんだ?』なんだよなぁ」
気を張り詰めるシルバは、ラスターに遣る眼光を鋭くする。
「おおっと、好戦的だねえ。でも俺らは純然たる平和主義者だ。誰一人として、暴力は振るわねえよ。お前ら二人が出て行ってくれりゃあ、なーんも文句は……」
「ラスターさん」
静穏な男の声が割り込んだ。
昨日、シルバも見ている中、真っ先に黒服にやられた、若い男の自警団員だった。顔には、黒服に向かっていった時と同じ、強い意志が見受けられる。
「誰が敵かは、きちんと見極めないといけませんよ。シルバさんは昨日、最後まで連中と戦ってくれたんでしょ? そんな立派な人は、追い出しては駄目です」
言葉を切った自警団員は、シルバに真摯な顔を向けた。
「目を覚ましてください。横のそいつはただの殺戮機械です。自分の意思で力を制御できない、危険極まりない存在だ。貴方が庇う必要なんて……」
「黙れ」
シルバが怒りを全力で込めて低く呟くと、自警団員はゆるゆると口を閉じた。
「下らない言い合いは、もう良い。いくらやっても結論なんか出やしねえ。だから、一つだけお前らに言っておく。頭にしっかり叩き込んどけ」
一拍を置いたシルバは、小さく息を吸い込んだ。
「俺はリィファの教師だ! 教え子が仮に九割九分悪人でも、そいつに寄り添い、正しい道を歩ませる! ましてや誰かを傷つけちまっても当人に落ち度が存在しないなら、そいつは紛れもなく無罪だ! 味方をしない道理は、どこにも存在しねえんだよ!」
シルバが吠えると、群衆は僅かに気圧された様子だった。
「退いてくれ。頼むから。問題解決の、小さな希望が見えてきたんだ。話したって、お前らは信じねえだろうがな」
投げ遣りに吐き捨てるが、誰からも返事は来ない。シルバはリィファの手を取り、ゆっくりと歩き始めた。