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よろめきつつ歩く者、担架に乗せられる者、肩を借りて歩く者。
誰もが傷ついている円形闘技場近辺はどんよりと重々しく、一切の希望が途絶えたような雰囲気だった。
シルバはすぐさま、リィファが倒れた地点に目を向けた。しかし、リィファの姿はなかった。
(気絶中にやられてズタボロ状態はあり得るが、跡形もなく消え去るわけがねえ。俺が黒服とやり合ってる間に、ジュリアみたいに担架で運ばれたのか? ……診療所に行ってみるか)
不吉な予覚に取り憑かれたまま、シルバは歩を進めた。足取りは、果てしなく重い。
道中、シルバは左右の草地に、地面の凹みをいくつか目撃した。
黒服たちの落下箇所である。直径は身長の倍ほどで、椀状。抉られて露出した茶色の土が、何とも生々しかった。
しばらく歩くと、国でただ一つの診療所が見えてきた。二階建てで屋根は水平、素材は薄汚れた白レンガである。
建物は草地の少し奥にあり、周囲に規則的に生えた広葉樹が、風にそよそよと揺れていた。
少し立ち止まったシルバは、ぎいっと背丈の高さの扉を押し開いた。
シルバの自室ほどの広さの部屋に、数組の木の椅子と机、平易な医療関係の本の並んだ本棚があり、正面の受付には若い女性職員がいた。
ジュリアとリィファの居場所を訊くと、女性職員の面持ちは微かに沈鬱さを帯びた。一拍を溜めて、丁寧な口調で話し始める。
聞き終えたシルバは軽く礼を告げ、二人のいる病室に向かった。夕陽が射し込む廊下は薄暗く、今のシルバの心境を表すかのようだった。
少し歩いて、左手の扉を横に引いた。
燻んだ深緑の石の床上に、六つの木製ベッドが並んでいる。面積は受付と同程度。天井は真っ白で、細い棒状の木が縦横に走っていた。
黒服の襲来の直後だからかベッドは埋まっており、右の手前側にはリィファがいた。表情はやや苦しげだが、胸は規則的に上下していた。
左奥のベッドのすぐ脇には、項垂れたトウゴと白衣の男の後ろ姿があった。
「トウゴさん!」
シルバの呼び掛けは、図らずも叫ぶようになった。返事を待たずに、早足で近づいていく。
ぽとり。トウゴの足下に滴が落ちた。シルバの血の気が一瞬にして引く。
トウゴの隣で停止し、ベッドに目を遣った。
横になったジュリアは、清潔な白色の掛布団に包まれていた。静けさを湛える身体は、ぴくりともしなかった。