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十歩ほど歩いた黒服は、ぴたりと立ち止まった。
仲間が着陸しているのか、あらゆる方角から盛大な衝突音が断続的に聞こえてきていた。
(いつもの奴らか。だが敷地内の出現も複数での襲撃も、俺が知る限りじゃあ初だぞ。黒って色といい、妙な事件の直後ってタイミングといい、不穏極まりねえ。無事に済みゃあ良いんだが)
シルバが静かに考えていると、一人の男の自警団員が目の前を走っていった。まだ幼さの残る顔は、見るからに使命に燃えていた。
二歩分ほど間を空けて、自警団員は跳躍。ほぼ身体を真横にして、飛び蹴りを放った。シルバの目にも見事な一撃だった。
黒服はすうっと自警団員に向き直った。ぱしっ。飛来する両脚をいとも容易く捕まえる。
自警団員が地面で頭を打った直後、黒服の身体が横回転を始めた。すぐに自警団員の水平状態になり、信じられないほどの速度で回され始めた。
動作は、形だけならジャイアント・スイングである。だが自然と起こるはずの細かな足踏みはなく、足の動きは変にゆったりとしていた。現実感を欠いた光景に、シルバは瞠目する。
五回転の後に、自警団員は投げられた。否、発射された。円形闘技場の壁に激突し、どんと地面に無抵抗に落ちた。
気を失って横たわる自警団員の全身に、ぱらぱらと壁の破片が落下する。
(んな馬鹿な! どんな膂力をしてやがる!)
シルバが狼狽していると、ぐるんと黒服が高速で首を回した。目が合ったように感じた途端、黒服が疾走開始。背中も肘も一直線の奇妙奇天烈なフォームで、ぐんぐん近づいてくる。
シルバの目の前で黒服は急停止した。真後ろに拳を振り被り、捻りも何もない直線のパンチを撃ってくる。
シルバは動転しつつも、左下に沈んで避けた。通過の瞬間、ぶぉんという音とともに風が側頭部を撫でる。
勢いを殺さず、シルバは左に半回転。後方に両手を突くと同時に、右足を全力でぶん回す。身体の捻りを用いた渾身のシバータだった。
鞭のような蹴りが、黒服の首に命中した。しかし黒服の身体は全く揺らがない。
(!? ラスター以上の屈強――)
シルバの思考は、腹への爪先蹴りによって断たれた。ほぼ真上に飛ばされて、受け身も取れずに地面上を跳ねる。
俯せのシルバは、即座に顔を上げた。黒服の靴底が眼前に迫っていた。
頭を踏み潰す軌道の右足を、シルバは後方に避けた。腹の鈍痛をむりやりに無視して、よろよろと立つ。
だがそこで、シルバは愕然とする羽目になる。
黒服の真後ろ、怒りと決意を瞳に宿すジュリアが、音を立てずに接近してきていた。