3
草地のほぼ全面に散らばった生徒たちは、シルバの掛け声に合わせて準備体操をしていった。
この日の授業はフットボールだった。シルバは試合の前に生徒たちに柔軟体操を命じた。生徒たちは、仲の良い者同士で示し合わせて二人組を作っていった。
シルバが立ったままなんとなく生徒を眺めていると、「センセー」と弾んだ声が背後から聞こえた。
シルバはさっと振り向いた。視線の先では、直立するジュリアが愉快げににーっと笑っていた。
ジュリアは、シルバの受け持つカポエィラ・クラブのたった一人の会員である。顔は小さくてやや丸く、まっすぐな黒髪は肩で切り揃えられている。
目は黒く大きく、持ち主の意欲を映していつもキラキラしていた。
身体は細めで背も大きくはなかった。だが、並外れた行動力と飾り気のない可愛らしさでどこにいても注目を集める存在だった。
(ジュリアは将来、美人になんだろな。だから、どうだって話だがよ)と、シルバは冷静に予想を付けていた。
「センセー、あたしと組もうよ。柔軟体操の時は、どーせとってもお暇でしょ? 時間とゆう限りある資源は、ユーイギ(有意義)に使わないといけないんだよ」
シルバは一呼吸を置いて、静かに返事をする。
「というかジュリア。お前はいっつも俺とだよな。良いのかよ? お前と組みたいって奴はいくらでもいるだろうが」
「いーのいーの。友達とは毎日お喋りしてるけど、先生とは、一日二回しか会えないからね! あたしの愛を平等に振り分けるには、ここでセンセーとペアを組むのがベスト・オブ・ベストな選択なんだよ! わかってくれるかな?」
一気に捲し立てたジュリアは、笑顔をシルバに固定したまま両足ジャンプを始めた。
「わかった。そんだけ深い考えがあんならお前と組んでやる。ただしこの授業が終わったら、
シルバはジュリアを見返しながら、やや冷たく突っ込んだ。
慕われて悪い気はまったくしない。だがどうしても「ありがとう」を口には出せなかった。
「うん、ありがと! センセーのお墨付きも得られたし、あたし、今日も今日とて本気を出しちゃうよ!」
ジュリアは元気に即答し、二人は柔軟体操を始めた。