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第10話 墓場のゾンビ

 アストリア一行が次なる目的地へ向かう途中、不気味な霧に包まれた古びた墓場に足を踏み入れた。


 そこは、荒れ果てた墓石と枯れた木々が並び、空気には腐敗したような臭いが漂っている。


「嫌な予感がするな…」


 ローハンが斧を構え、辺りを警戒する。


 突然、地面が震え、朽ちた墓石の下から黒い手が伸びてきた。


 続けて無数のゾンビが地面を割って這い出してくる。


 彼らの眼窩は空洞で、口から腐った液体が滴り落ちていた。


「"喜の魂"の気配を嗅ぎつけたか...!」


 アストリアは剣を抜き、険しい表情で構える。


 ゾンビ達はゆっくりとした動きで群れをなして迫ってきたが、その数は圧倒的だった。


『兄さん、代わって!』


 セラフィスの声がアストリアの頭に響く。


『セラフィス、頼む!』


 アストリアの体が一瞬硬直し、セラフィスの人格が表に現れる。


 彼の瞳が蒼く輝き、「スキャニング」が発動した。


 ーー視界が一変する。


 墓場全体の地形、ゾンビの位置、動きの軌道、隠された敵の気配までもが、アストリアの精神脳に立体的な図面として直接転送される。


「ゾンビは全部で34体。そのうち前列の9体は速度が速いタイプ。だが、墓石の影に指揮役らしき存在がいる。奴を倒せばこの群れを制御している魔力を断てるはずだ。」


『了解だ!』


 セラフィスは光の神殿での覚醒を経てから数ヶ月間、アストリアとともに"スキャニング能力"の訓練を積み、セラフィスの状態を数秒間は持続できるようになった。


 しかし、その分アストリアの精神、身体に対する負荷は大きい。


 彼はゾンビの配置と戦術を正確に伝え、アストリアに主導権を戻した。


 アストリアはセラフィスから得た情報をもとに、まず速いタイプのゾンビを引きつけた。


 腐った肉の匂いが鼻をつく中、彼は剣を振るい、一体一体を的確に仕留めていく。


「ローハン、後方から来る奴らを頼む!」


「任せろ!」


 ローハンは重い斧を振り回し、迫りくるゾンビを一撃で粉砕する。


 その一振りはゾンビを吹き飛ばし、地面に叩きつけた。


 だが、倒しても倒しても次々と現れるゾンビに、二人はじりじりと追い詰められていく。


『セラフィス、もう一度頼む!』


 アストリアが叫ぶと、セラフィスの意識が再び前面に出た。


「墓石の陰、左斜め前方15メートルに指揮役がいる。動きが遅い今がチャンスだ。」


 セラフィスが再びスキャニングで情報を伝えると、アストリアはその位置に向けて一直線に駆け出した。


 ############################



 墓石の陰にいたのは、ぼろぼろのローブをまとったネクロマンサーだった。


 腐敗した腕に刻まれた魔法陣が光を放ち、ゾンビ達を操っているのだ。


「お前が黒幕か!」


 アストリアは剣を構え、力強い突きを繰り出した。


 しかし、ネクロマンサーは腐った指を振り上げると、足元の土から新たなゾンビを召喚した。


「こんな数…!」


 次々と現れるゾンビたちに囲まれるが、アストリアは決して怯まない。


 セラフィスが伝えたスキャンデータを頼りに、動きを読みながら巧みに剣を振るう。


「ローハン、道を作れ!」


 ローハンが再び斧を振り下ろし、ゾンビの群れを両断。


 アストリアはその隙間を突き進み、ネクロマンサーに迫る。


「これで終わりだ!」


 アストリアは大地を強く蹴るとともに剣を天高く掲げ、雷電を纏わせ叫んだ。


「マグナム・トニトルス(大いなる雷鳴)!!!!!」


 剣先から放たれた強烈な電撃波が、ネクロマンサーとその周囲のゾンビを巻き込み、一瞬で吹き飛ばした。


 ネクロマンサーは倒れ、ゾンビ達も次々と崩れ落ちていく。 


 墓場には静寂が戻り、ただ霧だけが漂っていた。


 勝利を確信したアストリアは剣を収め、地面に転がっている壺――"喜の魂"が宿る宝物――を慎重に拾い上げた。


「これで、"喜の魂"は何とか死守できた。」


 安堵の息を吐くアストリア。


 しかし、その瞬間、弱っているはずのネクロマンサーが不意に立ち上がり、手をツルのように伸ばしアストリアの手から壺を奪い取った....!


「何!?」


 アストリアが驚き振り返ると、ネクロマンサーの目は涙で潤んでいた。


「これだけは…これだけは絶対に渡すわけにはいかない....!」






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