目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報
第4話 対ゴブリン軍団

 アストリアとセラフィスの旅は続く。ある日、2人はとある村に辿り着いた。


 村は奇妙な緊張感に包まれており、村人たちは一様に怯えた表情を浮かべていた。


 アストリアは村の長老から話を聞き、ゴブリンの集団が近くの山から現れ、村を度々襲っていることを知る。


「私達には戦う力がありません。どうか、助けてください!」


 長老は懇願するように言った。


 アストリアは少し考えた後、心の中でセラフィスに尋ねる。


『どう思う、セラフィス?』


 セラフィスは冷静な声で答えた。


『兄さん、これは僕達の力を示す絶好の機会だと思う。』


 アストリアは頷き、村人たちに「もう心配はいらない」と伝え、ゴブリンとの戦いの準備に取り掛かった。


 夜更け。


 ゴブリン達が砂埃を巻き上げながら迫ってくる中、アストリアは剣を構えて静かに待った。


 暗闇に包まれた彼の視界には何も映らない。弟セラフィスの力が頼りだ。


 互いの力を駆使して戦わなければ、数、地理的条件共に圧倒的に不利なこの戦いを生き残ることは出来ないだろう。


『セラフィス、今だ!』


 その声が心層部に届くと同時にアストリアの意識が後退し、代わりにセラフィスが前に出る。


 そして、光を失っていた瞳が灯り出す。


 セラフィスでいられるのはわずか1秒間。


 その短い間に、周囲の状況を一瞬で把握し、次の行動を判断しなくてはならない。


 セラフィスがアストリアの目を通して見たのは、前方に詰め寄ってくるゴブリンの群れとその武器。


 左前方の2体が棍棒を構え、右には槍を持った1体らさらに後方には弓を構えるゴブリンが2体。


『アストリア、左前方から来る2体に注意...棍棒を持ってる...!右に槍1体...右後方には弓が2体いる!』


 再びアストリアが身体の主導権を取り戻し、セラフィスからの情報に従って動く。


 左から迫る2体に狙いを定め、まずは1体目の棍棒を横に跳びながらかわし、剣を振り下ろして一撃で切り倒す。


 その勢いを利用して残りの一体にも切りかかり、真っ直ぐに剣を貫く。


 次に再びセラフィスになれるまでに約15秒のインターバルがある。


 15秒のカウントが進む中、アストリアは右側の槍持ちゴブリンが突進していくが、彼にはその動きが読み辛い。


 その時!


『いけるよ、兄さん!』


 セラフィスの声が身体中を響き渡った。


 セラフィスが1秒間だけ目を使い、槍持ちゴブリンの距離と角度を瞬時に計算する。


『アストリア、右足を引いて、槍を横から受け流して反撃だ!』


 その言葉に従ってアストリアは一瞬の隙をついて体を引き、槍の突き出しを受け流すと、反撃の一撃を槍持ちに喰らわした。


 ゴブリンが倒れ、弓持ちが矢を構えている音がかすかに聞こえた。


 弓持ち二体が今まさに矢を放とうとしているまさにその瞬間!!


『アストリア、弓の軌道に注意して、右へ回避だ!』


 アストリアに戻ると同時に右に飛び込むように転がり込んだ。


 矢が風を切って通り過ぎるのを待たずして彼は一気に間合いを詰め弓使いの1体を倒し、次の1体にも強烈な回し蹴りを喰らわす。


 こうして1秒ごとのの視覚を頼りに、アストリアは周囲の敵を1体ずつ着実に倒していった。


 敵の攻撃が迫るたび、セラフィスの力を借りて状況を把握し、その指示をもとにアストリアは暗闇の中でも正確に剣を振り抜くことが出来た。


 最後のゴブリンが倒れたとき、荒れ果てた戦場には静寂が戻った。


 アストリアは激しい息をつきながら膝をつき、心の中でセラフィスに向かって微笑んだ。


『取り敢えず、一件落着だ。』

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?