遠い昔、緑豊かな大地に囲まれた王国があった。
名はエリトール。
この国には、古くから伝わる伝説の中で語り継がれる一つの予言があった。
それは、
「双子の王子がこの国を導く時、世界は新たな時代を迎える」
というものだった。
その予言が現実となったのは、ある晴れた日のこと。
国王アリスターと王妃エリザのもとに、双子の王子が誕生した。
王国中が祝賀ムードに包まれたが、すぐにそれは悲しみに変わる。
生まれた兄アストリアは目を開けてもその瞳には何も映っていなかったのだ。
一方、弟セラフィスは本来なら足があるであろう場所に何も無かった。
国王と王妃は、悲しみと悔しさで胸が締め付けられた。
双子の王子が王国を救う未来を信じていたはずなのに、運命の逆転に思えた。
王国の宮殿の広間に集まった臣下達は、国王に心配そうな目を向けた。
「世界は新たな時代を迎えるのではないのか?」
「予言は間違いだったのではあるまいか」
そんな噂がまことしやかに囁かれた。
しかし、一人アリスター王だけは違っていた。
彼は静かに立ち上がり、息子達を抱きしめ、涙を流しながら言った。
「どんな状況でも、私達の子である限り、立派な王子だ。お前達を悪く言う奴がいたとしても、全力で守る。守ってみせる。たとえ盲目でも、歩けなくても、二人が力を合わせれば、きっと世界を変えられる。」
それから程なくして王は突然の病に倒れてしまった。
目の見えるセラフィスが政務を執ることとなった。
兄のアストリアは目が見えない。
それでも、王宮の訓練場では鍛錬を欠かさず、毎日のように木を切り倒し、大きな岩を動かしては周囲を圧倒した。
一方、学力面に秀でたセラフィスは王国の図書館にこもり、兵法書や地図を読み漁る。
訓練場では多くの戦術や知恵を兄に伝える役割を果たしていた。
セラフィスの鋭い観察眼と計算力は、兄にとって不可欠な力となっていた。
全てが順風満帆に思えた。あの時までは。
アストリアとセラフィスが青年に成長する中で、彼らの関係は次第に変わり始めていた。
互いに支え合ってきたはずの兄弟の間に、かすかな歪みが生まれた。
セラフィスは、自分がどうしても叶わない「力強さ」を持つ兄アストリアに対して、複雑な感情を抱き始めていた。
アストリアが見えない世界の中でも常に明るく、揺るぎない意志で自分の道を進む姿を見て、セラフィスは羨望と苛立ちを募らせていった。
歩けないもどかしさを感じるたびに、彼の心の中には不安と劣等感が渦巻いた。
そして、それはいつしか歪んだ欲望へと変わり、アストリアの「力」を奪いたいという思いが彼の心を支配するようになった。