地球のある村の真ん中に、突如宇宙人が降り立った。その宇宙人は人間の言葉を話せて、友好的で、そして手の内に大きな金塊を持っていた。
「もし、宇宙人さん。その手の中のものはなんですか。何か大事なものなのでしょうか」
そう話しかけたのは、村一番の長者だった。長者はわざと価値に鈍感なふりをして、金塊を丸ごとせしめてやろうと目論んでいた。
「いえ、地球では、この金属があれば、何でも好きなものと交換してもらえると聞きまして」
「ははあ、なるほど。それなら、この馬はいかがでしょう? これに乗れば、歩かずに好きなところへ行けますよ。観光のお供にぜひどうぞ」
「わあ、動物に乗って移動するんですか? それは面白そうだなあ」
宇宙人は長者の申し出をたいへん喜んで、金塊を馬と交換した。
それを見ていた村人たちは、自分たちも長者の後に続くべく、虎視眈々と機会を伺うようになった。
まず、門番の兵士が、
「宇宙人さん、宇宙人さん。その馬はすぐに疲れて使い物にならなくなりますよ。代わりに、この綺麗なドレスはどうでしょう?」
と話を持ちかけた。
「わあ、人間はこれで体温調節するんですよね。面白いなあ」
宇宙人はやはり喜び、馬を渡してドレスを着せてもらった。
門番はそれ以上に喜んで、すぐさま馬を売っぱらって金貨を三枚手に入れた。
次の日には、村の女が、
「あのう、そのドレス、綺麗だけれど暑いでしょう? よかったら、冷たいお蜜柑たべませんか?」
と、井戸から出したばかりの蜜柑を差し出した。
それに宇宙人が頷くや否や、気が変わる前にと急いでドレスを剥ぎ取り、質屋に持ち込んで金貨を一枚手に入れた。
最後に村の子供たちが、
「蜜柑をくれたら、これをあげるよ」
と言って、なんとただのわらしべ一本を宇宙人の手に握らせた。
「これは、何をするためのものなんだい?」
宇宙人が聞くと、子供たちは被っていた帽子を脱いで答えた。
「このわらしべをたくさん集めて編むと、こういう帽子になるんだよ」
「へえ。これは軽くて、通気性もあっていいなあ」
「でしょう? もっと蜜柑を持ってきてくれたら、もっとあげるよ」
「ようし。それなら迎えの宇宙船に、交換するものをたくさん積んできてもらおう」
宇宙人はさっそく仲間に連絡して、金塊を文字どおり山ほど持ってこさせた。
すると、たちまち金の価値は大暴落し、金貨では何も買えなくなってしまった。