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第14話


「んー……先輩、それいつもの体勢なんですか?」

「うん……だめ?」


 期待を胸に見上げた風谷の表情は、あまり明るいものではなかった。


「これまでに何度もここでプレイしたことあるんですね?」

「うん……え、なに?」


 どうして突然そんなことを尋ねられるのかわからない。膝の上に片肘をついている風谷は、眉根を寄せてどこか不満げだ。

 そんな表情を見るのははじめてで、僕は戸惑った。怒らせてしまった気がするけど、理由がわからない。


静かにShush。膝は床につけましょうか。正座を崩した感じで……女の子座りってやつ」

「ッ……」


 喋ることを制限されて、言われるがまま床にぺたんと座った。手は前に置いたままだから腰が反る。服従というより本当に女の子みたいで、甘えるような姿勢だ。


 これでいいのだろうか? じっと目を見つめていると、風谷はふっと微笑んだ。眉尻が下がって目が細まる。


「うん……すごくいいです。よくできましたGood boyね、先輩」

「……ぅ……ぁ……っ」


 褒めながら優しく頭を撫でられた。コマンドも、褒められるのも気持ちいいけど……声を我慢していると、なんかもっとだめだ。


 思わず目の前の膝にくてん、と頬を乗せ、接触部分を増やす。勝手な行動をしてしまったものの、叱られることはない。

 頭を撫でる手が止まらないのをいいことに、僕は膝に頬ずりした。ふわふわとした快感が僕を包んでいる。ずっと揺蕩っていたいと感じるほど、気持ちよくて幸せ。


 ――なんとなく、勝手にそこで終わりだと思っていたのは、いままで風谷とは軽いプレイしかしたことがなかったからだ。

 離れて行った手に名残惜しさを感じていると、新たなコマンドが発せられた。


「さて、先輩。脱いでくださいStrip。できるところまで」

「え……」

しっSh。コマンド破ったらお仕置きですよ? 嫌ならセーフワードを使ってください。さぁ、。俺に見せて?」


 まさかと思った。風谷がそんなコマンドを使うなんて。


 プレイは性的接触に繋がりやすいけれど、僕はこれまでそういった行為をしたことがない。高校生特権でオーナーの許可を振りかざし、事前に脱ぐことさえできないと伝えていたのだ。

 それでも雪さんのプレイバーでは優しい人が多く、今までの相手はみんなお遊びみたいなプレイにも付き合ってくれていた。


 他の相手だったら迷わずセーフワードを使っていたはずだ。でも……僕の手は考えている間にも動き、半袖シャツのボタンを外しはじめている。

 できるところまでって、言ってくれたし。自分でセーフワードを使ってもいいとまで言ってくれるDomなんて、初めてだ。


 支配する本能を持つくせに、Subに甘さを見せる風谷に報いたかった。ていうか、たぶん……プレイの相手を僕しか知らないだろう風谷を、引き止めたかったのだ。

 男として、Domとしても引く手あまたに違いない風谷が、僕だけを見ている時間。ぞくぞくと痺れのような興奮が沸きおこり、頭にもやがかかっていく。


 シャツを脱いで、勢いのまま中のインナーも脱いでしまった。空調が効いているはずなのに、汗ばんだ胸に涼しさを感じる。ズボンに手をかけたとき、迷いがよぎって風谷を見上げた。


 彼はじ……っと僕を見ていた。頬に上る熱を感じ、視線を下ろす。いや、見てLookのコマンドがあるんだった。いま免除されているのは、脱いでStripを遂行中だからだ。


(ど……どうしよう)


 いまや僕は、風谷のくれた優しいコマンドにとっても困らされていた。できるところまで、なんてずるい。

 そんなの、『俺のためにどこまで脱げる?』と同義じゃないか。僕は……どこまでできる? 頭の中の天秤がゆらゆら揺れる。


「先輩、無理しないで」

「…………」


 ――カタン、と天秤が音を立てた。


 ゆっくりジッパーを下ろす。腰を上げズボンを太ももまで下げて、あとは足先から抜き去った。


 恥ずかしくて身体が熱い。でもここまで来たら、自分がちゃんとできるSubであると証明したい。

 僕はもう一度風谷に教えられた姿勢で跪いた。しっかりと目を見つめる。


「よくできましたGood boy。嬉しいです」

「ん……」


 褒めてもらえた。うれしい。このために自分はがんばったのだ。


「こっち来てCome。もっと寄ってください」


 風谷が自身の手で腿をポンポン叩く。僕は吸いよせられるように風谷の脚のあいだまで身体を進め、腿の上にこてんと頭を乗せた。その頭に大きな手が乗せられる。


 撫でながら、上げた前髪をくしゃくしゃっと混ぜられて、くすくす笑う。

 甘やかされて、幸せで。わずかに残っていた理性も溶けて消えてゆく。


「あぁ〜〜〜っ、もう!」


 ぐっと身体を折りたたんだ風谷が、上から僕の頭を包み込むように抱きしめてきた。目の前が真っ暗になり、風谷の匂いと体温に包まれる。グレープフルーツみたいな、爽やかな香りがした。


「かわいすぎでしょっ……!」

「っん……は……」


 耳元で喋られて、くすぐったさにぶるっと身体を震わせた。素肌に風谷が触れている。


「先輩……え。えろ……男なのに……。なんなんだよもう……」

「なぁ、ぐれあもっと……」


 もう心地いいということしか考えられなかった。風谷が手を伸ばし、僕に触れてくる。


 しあわせ。また一段と増やされたグレアに、身も心もとろけてゆく。


「朔先輩、ご褒美です。イッてCum

「……〜〜ッ!!」


 完全に支配されていた身体はたやすく命令を聞いた。


 風谷が起き上がったことで、まぶたの裏に光を感じた。でも眠くて眠くて、とても目を開けられそうにない。

 不安症のせいでここのところずっと寝不足だったのだ。欲求が解消されて、身も心もスッキリして。


「ちゃんとイけて、えらいですGood boyね。先輩」

「えへへ、うれしー……」


 また頭を撫でられて、ふにゃふにゃと顔が緩む。風谷にほめてもらえた。きっとこれで、風谷にとっていちばんのSubになれた。

 僕は自分の成果に大満足して、そのまま夢の世界へと旅立った。


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