「――お
玄関にて、エウルイを連れて帰宅した水樹と静流を迎えた詩歌は目のハイライトを消してから問う。
そのあまりにも抑揚の無い声音に少しばかり水樹は恐怖を感じたのだが、詩歌の問いに答えたのはエウルイだった。
「我は幼女ではないぞ。我は誇り高き竜人である」
「……竜人? いやいや、どうみても幼女だよ! お兄、神様がいるからって幼女に竜人とか言わても誤魔化せないから!」
内心で「誤魔化してねぇー」と愚痴りながら水樹は大きく項垂れる。
そんな様子を横目に静流は「あはは……」と渇いた笑い声を溢すばかりである。
「そもそも泥棒猫――んんっ! 静流さんがいるのに何をしているんですか⁉ このままじゃ、お兄がロリコンのレッテルを張られるんだけど!」
「えーっと……これにはそれなりの事情があるんですよ。まあ、家に招待すると言い出したのは水樹ですが……」
「やっぱりお兄はロリコンだ! いや、ちょっと待って。だったら私も恋愛対象になれるのでは⁉」
ギャアギャアと騒ぐ詩歌にげんなりしながら水樹は溜め息を吐く。あと天地がひっくり返っても詩歌が恋愛対象になる事はない――と水樹は内心で断言する。
そんな騒ぎに耐えかねたのか、リビングから美波がしかめっ面を浮かべてやって来た。
「詩歌、大声でうるさいわよ! 水樹がロリコンなんて、そんなものは些細な問題でしょ。別に良いじゃない」
「いや、良くねぇから。俺の尊厳が社会的に死んじゃうから」
トンデモナイ事を言い放つ美波に、水樹は真顔でツッコミを入れる。
「今更尊厳も何もないでしょ。お父さんなんて遠の昔に尊厳なんて無くなっているわよ」
「――えぇ……」
哀れ流二。いったい何があったのか不思議に思いつつも、水樹は己の尊厳だけは守ろうと誓うのだった。
「それで――あらあらまあまあ、またまた可愛い娘を連れて来たわね。水樹、何処から攫って来たの? 正直に話しなさい」
「おい、母さん。俺を犯罪者みたいな目で見るんじゃない」
「我の名はエウルイ・ジ・ラック。水樹に招待された。よろしく」
何かを察したのか、エウルイが美波に対して自己紹介を行う。
抑揚の無い声音での自己紹介だったが、それが何処か母性本能を擽られたのか美波がニコニコしながらエウルイの頭を撫でる。
「エウルイちゃんね? まあ、自己紹介ができるなんて出来た娘じゃないの。あー、我が子たちに爪の赤を煎じて飲ませたいわ」
「……そんな母さんの子の躾を担っていたのは母さん自身だけどな」
水樹は天井を仰ぎながら吐き捨てるように言う。
そんな言葉には耳を傾ける事もなく、美波は「どうぞどうぞ」とエウルイをリビングへと案内し始める。詩歌は美波の後を追いながら何か言っている。
取り残された水樹は「はあ」と深い溜め息を吐く。
「水樹、とりあえず中に入りましょうか?」
「ああ、そうしよう」
そう言って玄関の扉を閉めようとした時だ。
「おいおい、何か変な気配がしたから顔を出してみたが面白れぇ事になってんじゃねぇか――ロリコン」
「…………赤猿、後で呼ぼうとは思っていたから丁度良かったよ。あと、ロリコン呼びは止めろ」
「おう、わかったぜ――ロリコン!」
ニヤニヤしつつ言う赤猿に、水樹は「はぁ~」と本日一の深い深いそれはそれは深い溜め息を吐くのだった。