目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第3章28 『雨龍武尊』

 ――雨龍武尊。人としての名は、雨柳蕪村。

 雨柳水樹の曾祖父にして水を司る神の一柱。そして、人間の女に恋をし、駆け落ちという形で姿を消したある意味で神々の間では有名な神。そして、開門輪を持ち出した盗人でもある。

 罔象女神曰く、「有していた神力は名のある神よりも優れており、その武の才は武神である日本武ヤマトタケル武甕槌タケミカヅチ建御名方タケミナカタに匹敵するほどです」とのこと。

 また水樹が手にしている神刀・波斬の所有者だった。

 人との間に子を成し。その孫には神力が引き継がれ、更には波斬を受け継がせた。

 雨龍武尊の行動にはあまりにも謎が多い。

 あの雨龍武尊だ「意味がない事はしないだろう」というのは水を司る神々たちの共通見解らしい。

 そして、何よりも神であるはずの雨龍武尊が既に逝去しているという事実。

 この事実には様々な神々が首を傾げる事になった。

 神に寿命は無く、神は同格以上の存在によってのみ殺される――ただの人の世で彼の神が死を迎える事はあり得ない筈だった。


「雨龍武尊は何かを知り、何かに挑み、そして敗れた――その意志を孫である雨柳水樹に託したのでしょうか?」


 これは罔象女神の憶測。その事実を知る者は誰もいない。

 だが、水樹へ宛てて曾祖父である雨柳蕪村は開門輪を託している。これは何かしらの意味があるとしか考えられないのだが……。


「奴は何を知り、何を考えてこの坊主に波斬まで託してしまったのか……」


「あら、お父様? 何やら水樹に託された事に随分と不満がありそうな声音ですね?」


「いや、何も不満はない……ないぞ?」


 父と娘の漫才を横目に、罔象女神はそれぞれが持ち寄った情報を整理していく。


「雨柳水樹殿、雨龍武尊――いえ、雨柳蕪村の遺骨は本当にありますか?」


「遺骨? そりゃあ、骨壺に入ってお寺に――」


 罔象女神の問いに水樹が答えようとする。


「その中身を見た記憶は?」


「中身……って、供養はしてもわざわざ開けて見ないでしょ」


「……そうなると確認をしていただく必要がありますね」


 罔象女神は言い、水樹もそれに頷いた。

 雨龍武尊=雨柳蕪村は本当に死んだのか――それを確かめる必要があった。


「さて、水蛇も無事治療が完了したようです」


 罔象女神は部下である神から伝えられた情報を口にする。


「とにかく雨柳水樹殿は人とは言え水の神力を有していますので、一応は水を司る神として名を連ねる必要があります」


「――――はい?」


「時が来ればまたお呼び出ししますので、その際は必ず呼び出しに応じるようお願いしますね?」


「――――えぇ?」


 罔象女神は水樹にとってはトンデモない事を言い残して、立ち去って行く。どうやら水蛇に何らかの処分を下すらしい。


「さーて、一先ずは解決って事だ。朱華の嬢ちゃん連れて帰ろうや!」


 先ほどまでダンマリだった赤猿が意気揚々と声を上げ、それに水樹は「それもそうだよな」と頷くのだった。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?