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第3章20 『外野にて』

 水樹が必ず助け来る――朱華はそう思っていたし、そう信じていた。

 助けてもらった日から普段の生活を知って、彼は超が付くほどの御人好しだった。困っている者には何だかんだ言いながらも手を差し伸べ、見返りを求めない。そして、自身の功績を吹聴しない。その在り方は人知れずに任務を遂行した忍者のようだった。

 水蛇に拉致され2日間。就寝市街は常に水蛇の傍にいる事を除けば、朱華自身は快適な生活を送ることができていた。

 孕み袋にする――などの言葉を述べていた割には実に好待遇だったと朱華は思う。

 水樹に対する信頼に興味を抱いたからかも知れないが、そんな根拠の無い話を信用する必要は無い筈だ。

 つまるところ口では何だかんだ言っても『神は人間を試すもの』なのだろう――と朱華は結論づけた。

 今、目の前で繰り広げられる水樹と水蛇の戦いを眺めながら、朱華はジッと待つことしかできない。


「――ふぅ、盛り上がってんなぁ……」


「ひゃい!?」


 突然聞こえた声に朱華が素っ頓狂な声を上げる。

 声のした隣を見ると、そこには顎に手を当てながら2人の戦闘を眺める赤猿の姿が在った。


「あ、貴方は……」


「どうも、坊主の師匠みたいな事をしている赤猿って神だ。今回の襲撃に1つ噛ませてもらった」


「は、はあ……手助に行かないんですか?」


「助けぇ? 行かねぇ、行かねぇ。こいつは坊主の戦いだ。水蛇も何だかんだ言っているが、今や坊主を試している節がある。オレとしては乱入もやぶさかではねぇけど、それが野暮って事くれぇはわかるぜ」


 此処に来るまでにそれなりに楽しんだし、問題ねぇよ――と赤猿はカラカラと笑いながら言う。


「さて、水蛇の言っていた話も気になるところがある。雨龍武尊が持ち去った開門輪――ま、アレだろうな」


「え、知っているんですか?」


「まあ、な。そうなれば気になるのは、なぜ開門輪を持ち出したのか? ただ駆け落ちするだけなら開門輪は必要ない筈だ」


 赤猿は「謎だ」とぼやきながら首を振る。

 その間にも水樹と水蛇の戦いは一進一退の様相を呈している。


「水蛇の神力が神器を顕現させるまでに昇華していた事は予想外だった。が、坊主も想像以上にやれている。さて、実力は水蛇がちょい上だが経験値には圧倒的な差がある。さて、坊主はこの局面をどう切り抜けるかねぇ?」


「貴方は雨柳君の味方じゃないんですか?」


「味方ぁ? オレと坊主は利害関係が一致しただけの関係だ。ま、多少は利害以外の要素もあるが、仲間ってほどの仲じゃねぇよ。あくまでもオレはオレが楽しめるか否かが判断基準なだけだ」


「……随分と自分勝手なんですね?」


「歯に衣着せぬ言葉だが、嫌いじゃない。あと朱華の嬢ちゃんには言っておくぜ?」


 そう言って赤猿は意地悪そうな表情を浮かべながら、次のような言葉を述べる。


「神ってヤツは気まぐれにして自分勝手。人間の頼みに応えるのも気が向くか向かないか。神社へお参りに来られても、それに応えるかは神のやる気の有無次第なんだぜ?」


「ええ……」


「ま、ある意味で神も人間とそう変わらんって事だ」


 赤猿はそう言ってカラカラと笑った。

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