「邪魔するぜぇ!」
そんな声と共に、ドバン――という炸裂音が轟き、砂煙が立ち上がる。
事態を引き起こした者は神力解放状態の赤猿であり、その背後には数人の舎弟の姿があった。
「キサマは赤猿!? 此処が水蛇様の邸宅と知っての狼藉か!」
「おうおう、そんなものは知ってらぁ! ま、オレはただのオマケでな? メインは隣の坊主だ」
そう言って赤猿は親指で水樹を指し示す。
「人間だと!? 赤猿、キサマは何をしているのか
「ああ、理解はしているぜ――最高に愉快って事をなぁ!」
棒を振り回し、水蛇邸宅の豪勢な門を吹き飛ばす。その余波に先ほどまで会話していた水蛇に仕える者諸共も巻き込まれる。
「さぁ、行きな坊主! 手前の焔を見せてみろ!」
「ああ!」
右手に波斬を握り締め、水樹は邸宅へと単身突入する。
「キサマら〜!」
巻き込まれた者が立ち上がりながら怒りの声を上げる。
そんな様子を見て、赤猿は最高に邪悪な笑みを浮かべて告げた。
「おうおう、この程度でへばんなよ? 闘争は始まったばかりだろう?」
◆◆◆
邸宅への突入を果たした水樹ではあったが、朱華が何処に捕らえられているかはわかっていなかった。どうやら情報集めをするにしても難航したらしい。
候補は何ヶ所かまで絞り込めている事は幸いか。しかし、それも今も有効かはわからない。
とにかく得ている情報を元に手当たり次第に行くしかない。
「侵入者だ――って、人間だと!?」
「邪魔だ!」
その姿を見て一瞬だけたじろいだところを水樹は一刀にて斬り伏せる。
赤猿曰く「多少の刀傷では神は死なねぇから、心置き無くぶった斬れよ」との事。
少しばかり抵抗はあったが、水樹も必死だ。
適宜、蒼穹眼を駆使しつつ立ちはだかる者たちを斬り倒しながら突き進む。
神力による妨害、或いは直接的な攻撃による妨害――多々あったが、どれも赤猿が繰り出した攻撃に比べれば遅くキレがない。
「――何だこの人間は!」
「水蛇様が話をしていた人間ではないか?」
「まさか!? 本当に乗り込んで来たのか!?」
動揺と驚愕が伝播していく中で、水樹は足を止めない。
赤猿曰く、「足を止めるのは死ぬ時だぜ」との事。
闇雲に邸宅を荒らしに荒らし、辿り着いたのは1つの大広間。襖を蹴り破り、水樹は遂に対面する。
「――待ち草臥れていたよ」
大広間の奥で優雅に寛いでいる水蛇。そして、その隣には煌びやかな着物に身を包んだの朱華の姿が在った。
「さて、彼女の言った通りに君は来た。多少は鍛えたみたいだけど、それでボクに勝つ気かい?」
「勝つ気じゃないんだ。勝つ為に此処に来たんだ」
「……へぇ、惨めに負けたのに強い言葉を吐くじゃないか」
馬鹿にするような表情と声音で水蛇は言葉の刃を突き付ける。
「外で暴れているのは赤猿かな? てっきり彼と一緒に来ると思っていたけど」
「さあ? 赤猿もアンタなら俺1人で充分と判断したんじゃないか?」
「……なるほど、たかが2日で随分と傲慢になったものだね。どれだけの研鑽を積もうとも、神と人間には絶対的な差が存在しているもの。故に、君はボクには届かない」
水蛇が立ち上がる。
水樹も波斬を構えて、ジッと睨みつける。
「君の勝敗が彼女の運命を左右する。さあ、無様な君の足掻きをボクに見せてくれよ!」
その水蛇の言葉と共に水樹は飛び出した。