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第2章4 『戦闘狂い』

「神様って奴はどいつもこいつも奇襲が好きなのか!」


 顰め面を浮かべながら水樹は叫ぶ。

 前回の龍水の時然り、今回の赤猿も然り、突然現れて話すだけ話したら攻撃を仕掛けて来るのだから水樹の叫びも必然だろう。

 そんな水樹の様子を見て、赤猿はケラケラと笑う。


「おうおう、神だからって正々堂々やる必要はねぇからな! ま、オレとしては奇襲が相手の実力を見るには丁度良いからやってんだけどな!」


「実力も何も……俺よりも圧倒的にアンタの方が強いだろ!」


「おいおい、今更ただの人間なんですなんて興冷めする事言ってくれるなよ? つーか、身に神力宿してんなら、坊主は人間じゃねえよ」


 次々と火柱を建築する赤猿。

 その火柱を情けない動きでギリギリ回避する水樹。時折、静流のサポートが入り何とかなってはいるが、正直言って厳しい状況だった。


「赤猿、わたしはデート中だったのですよ。乙女の邪魔をするとは如何なものでしょうか?」


「そいつは悪かったな嬢ちゃん」


 悪びれる様子もなく赤猿は言う。


「静流、今話す事じゃないぞ!」


「わかっていますけど、恨み言の1つくらい言ってやっても良いではありませんか!」


「それはそうだな!」


 水樹と静流は並んで赤猿の正面に立った。


「さて、そろそろ見せてみろよ? 坊主が持つ権能をよ?」


 赤猿は両腕を広げ笑みを浮かべながら言う。

 水樹は苦虫を噛み潰したような表情をしつつ、右手を前に出す。


「来い――波斬」


 淡い青の光と共に、突き出した右手に刀が顕現する。

 それを見た赤猿は感心したような声を上げる。


「ほう、神刀を顕現させたのは本当だったか。なるほど、なるほど……だが、坊主の有する実力に見合っちゃいないな」


「見せたら見せたで罵倒かよ!」


「……何ともまあアレだ。坊主、魂に焔が宿ってねぇな」


「は?」


 一瞬だった。

 水樹の眼前に赤猿の姿があった。


「なっ――!?」


 赤猿の手刀が水樹の腹へ突き刺さる直前、間に静流が割り込む。

 ダンっ――という鈍い音。

 静流が赤猿の手刀を蹴り上げたのだ。


「危ないですねッ!」


「番にするなら強い雄が良いだろう? 此処で死ぬ程度ならそこまでだったて事だ」


「噂に違わぬ戦闘狂いですね」


「おいおい、俺は別に戦闘狂いじゃねぇよ。ただ、気になった奴に唾つけてるだけだぜ?」


 静流と赤猿が格闘戦を繰り広げている中、水樹は波斬を構えたまま様子を伺っていた。


(早過ぎてよく見えない。下手に介入したら、逆に静流の足を引っ張る事になる。どうすれば……)


 ギリッと奥歯を噛みながら、水樹は波斬の柄を握る手に力を入れる。

 ――と、ガサりと水樹の前に静流が舞い降りる着ている服は所々が破れており、口元から少量の出血があった。

 一方、少し前方に立っている赤猿は怪我1つ見受けられない。


「……まあまあの実力だな。だが、全然熱くなれねぇ」


 周囲に火の粉を散らしながら不満気に赤猿は言う。

 龍水も大概化け物だったが、この赤猿は戦闘狂いも加味するとそれ以上の化け物だ。


「で、嬢ちゃんに守られるだけの坊主は刀構えるだけか?」


 赤猿は水樹を真っ直ぐ見つめながら問う。

 首根っこを掴まれたような気分だった。

 水樹の頬を伝う嫌な汗。まるでライオンに睨まれた獲物の気分だ。

 暫しの沈黙の後、赤猿が首を振る。


「何だ何だ? 力は持っているだけの雑魚か? 手前は糞にも劣る生き物か? 一応は神も退けたとは聞いちゃいたが、こいつは拍子抜けだ」


 赤猿はゲンナリした様子で吐き捨てるように言う。


「その手に持つ神刀も見かけ倒しか? まあ、見るからに誰からか権能を引き継いだみたいだが……宝の持ち腐れだろ?」


 赤猿の雰囲気が変わる。

 先ほどまでのものとは違う、獲物を狩り取る捕食者の雰囲気だ。


「……坊主、手前が持ってちゃあ、その権能が哀れで仕方ない。故に、このオレがそいつを簒奪しよう!」


 赤猿の手に身長ほどの長い棒が顕現する。


「簒奪って……水樹を殺す気ですか!?」


「愚問だな。そもそも論、その権能は神の所有物だ。経緯は知らんが、回収するのも神の務めだろうよ」


 静流の言葉に赤猿は歯に衣着せぬ物言いで返す。


「死にたくねぇなら、魂に焔を宿しな。無理なら潔く諦めな」


 赤猿は水樹を見下しながら告げた。

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