夏休みも中盤に差し掛かり、静流との同居生活にも慣れてきた頃。
その間、曾祖父の手掛かりを探して水樹は自宅と祖父母が住んでいた家へと足を運んで情報収集を行っていた。しかし、有力なものは何一つ見つからず仕舞いであった。
子ども頃に曾祖父とよく遊んでいたと言っていた父・流二から話を聞くも「うーん、普通の爺ちゃんだったけど?」と何一つ役に立たず、面識のある母・美波も「穏やかな人だったわよ? アンタもよく遊んでもらってたじゃない」という程度のもの。
そう考えると水樹の一族は謎が多過ぎる問題が発生する。
一応、曾祖母の家系図は調べがついた。だが、曾祖父の方は見当たらない。まるで曾祖父が突然現れたかのように感じてしまうほどだ。
「――と、まあやれる事はやり尽くしたし、これ以上調べようはない。あとは何の襲撃も無くて至って平和だな」
龍水武尊――改め龍水の警告もあり、水樹と静流は気を張っていたのだが、特に大きな問題は起きずにいた。だからと言って、警戒を解くワケにもいかないので気が滅入る日々ではあった。
「水樹、ずっと家で過ごしてばかりじゃなくて静流ちゃんを連れて出かけてきなさい」
ふと美波がそんな事を言い出した。
「えぇ……?」
「アンタねぇ、そんなんだと愛想尽かされるわよ?」
「大丈夫ですよ、お義母様! わたしが水樹に対して愛想を尽かす事はありませんので!」
短い間で美波と静流の仲は随分と深まっていた。ちなみに妹の詩歌とは不仲の溝が深まっている。
「とにかく駅までは送って行ってあげるから、静流ちゃんと博多まで行きってきなさい」
そう言って美波は財布から一万円札を2枚静流へ手渡す。
「これでデートでもしてきなさいな。水樹、ちゃんとエスコートするんだよ! ささ、静流ちゃんのコーディネートは任せなさいな」
有無を言わさぬ勢いで、水樹の予定が決まってしまった。
静流は美波に連れられてリビングから出て行く。
1人取り残された水樹は「はあ」と1つ溜め息を吐いて、ソファから立ち上がる。
「着替えるかー」
大きく背伸びをして自室へと歩き出した。
◆◆◆
福岡県福岡市博多区――博多駅。
在来線、新幹線、地下鉄を含めて1日約40万人が利用する九州最大の駅であり、福岡市の陸の玄関口だ。地下鉄を使えばものの数分で福岡空港までアクセスでき、徒歩数分の場所にバスターミナルもあるという利便性が突き抜けた駅。
そんな人の往来がある博多駅の改札を抜けて直ぐの場所で水樹と静流は立ち尽くしていた。
「さて、俺としても久々に博多までやって来たんだが、如何せんエスコートするにしてもよくわからん」
「わたしは水樹と一緒なら何処でも楽しいですよ!」
一応、静流から美波へデートの感想が話されるだろうから、下手すれば「アンタ、センスないわねぇ」と罵倒される未来もあるので水樹としては死活問題だ。
兎にも角にも立ち尽くしているワケにもいかないので移動しよう――と思った矢先だった。
「あれ? 雨柳君?」
そんな言葉を掛けられ、水樹は声の方へと顔を向ける。
そこにいたのは水樹としても見覚えのある少年少女5人のグループ。
「……西野さん?」
声を掛けてきた女子の名前を水樹は口にする。
「偶然だね! 1人で来たの?」
「いや……連れはいる」
面倒な事になったなぁ――と水樹は思いながら、隣に立っている静流へと視線を向ける。
するとグループ内の男子の1人が声を上げる。
「おいおい雨柳、その美人さん誰だよ!」
「うるさいぞ、篠崎。えーっと――」
さて、どう説明したものか――と考えていると、静流が口を開いた。
「初めまして、
「ちょっ⁉」
時既に遅し。
その言葉を聞いた5人は口を半開きにし、一瞬固まったが次の瞬間声を揃えて声を上げた。
「「「「「えええぇぇぇぇぇ⁉」」」」」
水樹は額に手を当て、深く溜め息を吐いた。