目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第1章10 『一先ずの終わり』

 龍水武尊が立ち去った後、散歩の続き――とはならず、自宅へ帰る事と相成った。

 水樹の服が真っ赤っかという実にショッキングな事もあるが、あのまま楽しめるとも思えなかった事も理由だ。

 帰宅後、水樹は服を引っ剥がされ、静流より入念に身体をチェックされたのだが傷1つ見受けられなかった。

 それは水樹の身に宿る雨龍に似た神力が要因なのだろう。実際、神力による治療は存在しているらしいので違うとは言い切れない。

 斬られた間際、水樹が思い出した曽祖父の言葉の存在。

 曽祖父と雨龍――何らかの関係があるとでも言うのだろうか?

 しかし、曽祖父は既に亡くなっており、今や調べようのない状況だった。

 一先ず、水樹と静流はこれから発生する可能性ある問題を含めてリビングで情報整理をしていた。


「――その話から考えると、水樹の大御爺様が何かを知っていると思われますが、既に亡くなっているのであれば何もできませんね」


「ああ、それに曾祖父ちゃんの名前は確か……蕪村ぶそん――雨柳蕪村うりゅうぶそんって名前だったし、それこそ言い方はアレだけど雨龍武尊あまたつたけるのみことだなんて仰々しくなかった」


 水樹は首を傾げながら言う。

 蕪村の妻であった曾祖母の雨柳海南江うりゅうみなえも既に鬼籍に入る。そして、その2人の娘である祖母と夫の祖父は数年前のとある事故で亡くなっている。

 そうなると後は祖父母の子となる水樹の父であるに流二から話を聞くしかないが……。


「親父は……何も知らなさそうだなぁ……」


 日々の様子から何も知らない気がしてならない。

 とは言え、手掛かりが少ないので仕事から帰って来たら聞いてみようと水樹は思う。


「それにしてもお父様も意味あり気にしながら、核心は話してませんからね」


 溜め息混じりに静流は言う。

 疑問は尽きないが、今後の課題はその他にもある。

 龍水武尊が告げた他の神々による襲撃の恐れは特に重大だ。

 水樹や静流を狙ったものならまだしも、家族や知人まで巻き込まれるのであれば看過できない。


「……まずは水樹自身を鍛えないといけませんね」


「……え?」


「何を呆けているのですか。理由はともあれ、その身に神力を宿して、更には神刀まで顕現できるようになった以上は力と権能の制御ができるようにするのは当然です」


 静流から言われても、水樹は「うーむ」と唸る。

 水樹が一通りの説明を受けた限り神力とは、ゲームで例えるなら所謂MP的なもの。身に保有する神力を消費し、権能を行使するといった具合だ。

 そして、神刀とは神力を創造し構築したもの。それなりの難度を誇っており、並の神では顕現させる事ができないらしい。

 龍水武尊は一応神刀の顕現ができるらしいが、どうやら理由ありのようで「使ったところは見たことない」と静流は言っていた。ちなみに静流自身はまだ顕現できない。


「……しっかし、何で神ですらない俺が神刀を使えるんだ?」


「それが分かれば苦労しないですよ」


「それもそうだが……」


「とにかくお父様の脅威は退けました。今後、お父様からの襲撃はないでしょう」


 自身の父親を脅威扱いしている静流に苦笑を浮かべつつ、水樹は天井を仰ぎながら思う。


(……夏休みの平和は消え去ったな)


 しかし、隣で笑う静流を見て「まあ、それも良いか」と水樹はボソッと呟いた。

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?