「あらあら、そうなの〜。もう、我が息子ながらとんだプレイボーイじゃない〜」
リビングにて、テーブルを挟んで水樹と静流の向かいに座る水樹の母親・
静流もニコニコしながら最初の馴れ初め話をしている。
そんな女同士の会話を聞いている間に、水樹も不鮮明ながらもじわじわと当時の記憶が甦ってきた。そして、「当時の俺、攻め過ぎでは?」と直ぐにでも頭を抱えてベットに飛び込み悶えたい気持ちになる。
しかし、会話に夢中な2人は水樹の心境など知る由もなく、美波に限っては今に至るまでの水樹の恥ずかしい話をマシンガンの如き勢いで公開している。
もう終わった事とは言え、やはり恥ずかしいので水樹しては即刻止めてほしいのだが、美波が息子の話を素直に受け入れる母親ならどんなに楽だっただろうか……。
「あの信じてもらえるか分かりませんが、実はわたし神なんです」
「へぇ〜、静流ちゃんは神様なのね。もう、ウチのバカ息子で本当に良いの?」
サラッと自身が神である事を告げた静流。そして、何食わぬ顔でスルーした美波。
これには水樹も突っ込まざるを得ない。
「ちょいちょい、母さん! 流れるようにスルーしてたけど、神様だぞ! 神様! ゴッド!」
「うるさいわね。別に神様だとかどうだってこの際どうでも良いのよ。寧ろ恋愛に身分なんてクソ喰らえなのよ。アンタは静流ちゃんの旦那という事実さえあれば問題ないの!」
「えぇ……」
元からぶっ飛んでいるとは思っていたがこれ程とは――水樹は口元を引き攣らせながら静流を見る。
「そうですね、身分なんて問題ではありませんよね!」
「もう、ダメかも知れない」
眉間を押さえながら水樹は天井を仰ぐ。
水樹の嘆きを華麗にスルーした静流と美波はガールズトーク(諸説あり)に花を咲かせる。
と、玄関が乱暴に開け放たれる音が響く。そして、ドタドタと荒い足音と共にリビングの扉が乱暴に開かれ飛び込んで来たジャージ姿の少女。
「お
「話が出回るの早過ぎない? それと遊び常々以前に俺と
「そんな!? くっ……やっぱり行政が、司法が悪なんだ!」
幼い頃からベッタリではあったのだが、ここまでになるとは誰も思っていなかった。なお、改善の兆しはない見込み。
「行政常々がしっかり仕事をしていて俺は安心しているよ」
「認めないッ! 私は認めないからねッ!」
ビシッと人差し指を静流へ突き付けながら詩歌は高らかに宣言する。
――どうしてだろう、俺の周りの方が盛り上がっている。
水樹は遠い目をしながら成り行きを見守る事にした。
どれだけ水樹が足掻いても母親の美波と妹の詩歌の暴走は止められない。
半ば宣戦布告のような事態になった静流であったが、特に慌てた様子もなく慈愛の表情を浮かべながら口を開いた。
「では、認められるように頑張りますね」
「ゔっ……」
その表情に充てられたのか、或いは別の要因なのか――あまりにも神々しい雰囲気を放つ静流を目の前にし、詩歌は胸を押さえながらその場に膝を着く。
「……今回は退くけど、まだ負けたわけじゃないからね!」
「はい、分かっていますよ」
「あああああああ、その余裕は何処からァァ⁉」
頭をわしゃわしゃと掻き毟りながらリビングを飛び出していった詩歌を、静流は控えめに手を振りながら見送っている。
美波も「お兄ちゃん離れする良い機会ね」なんて暢気な台詞を吐いている。
斯くして
「そんなワケでお義母様。本日からコチラで住まわせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「どんなワケだよ⁉」
「別に問題ないわよ。食費は……お父さんのお小遣い差っ引けば問題ないでしょ」
「母さんッ⁉」
さらりと決定する静流との同居。そして、父親のお小遣い減額。
心の中で「すまない、親父……」と合掌しつつ、水樹は溜め息を吐く。
その後はあれよあれよといろいろと話は進んでいった結果――静流は水樹の婚約者(母親公認)となっていた。
「これからよろしくお願いしますね!」
静流は輝かしい笑顔を浮かべて言う。
「とりあえず友達から始めません?」
水樹は困惑しつつも妥協点を告げる。
「難しい事はどうだって良いのよ! 結婚よ、結婚ッ!」
美波は適当だった。