リュークに案内された部屋は落ち着いたクリーム色に統一されていて、こげ茶の家具が一通り揃えられていた。
ミシャルの好みど真ん中の家具は余計な装飾もほとんどなく、ミシャルはその部屋を一目で気に入った。
部屋の間取りもよく、日がよく入る明るい部屋は広々としていて今まで閉じ込められていた住んでいた屋根裏部屋が3つは入りそうな広い空間で、屋根裏部屋よりずっと過ごしやすい雰囲気だった。
リュークの気遣いか、はたまたクロデュクスか。
女性らしさが足りないと思ったのか薔薇の形をした花束が鉱石になった物が飾られていて、ミシャルは声を出した。
「このお花、私のお部屋に置いてくださるのですか!?」
さっきのクロデュクスが言っていた訳ありの薔薇をもう一度よく見れるとは思ってもいなかったミシャルはことの他喜んだ。
「クロデュクス様からの贈り物です。この部屋は令嬢には些か地味なので華を添えるように言付かりました。」
リュークがさも仕方ないとばかりに説明してからミシャルを脅すことも忘れない。
「もしも外に持ち出せば貴方をすぐにあの世に送って差し上げる事になりますので、くれぐれも大人しくなさってくださいね」
ひゅっ、とミシャルの喉がなった。
そのまま声もなく頷いて大人しくしている事を言葉なく伝える。
気を抜けばリュークによってすぐにミシャルは処分されてしまうとわかる声音だった。
ミシャルはすっかり殺される気はなくなっていたため、リュークの言葉に大人しく過ごす事を誓った。
リュークなら少しでもおかしな事をした瞬間からミシャルを斬り捨てる事は容易に想像できた。
「出来る限りサポートはしますが、自分の事は出来うる限りご自分でお願いします。お食事はこちらでご用意します」
リュークはそう言い残すとミシャルを残して部屋を後にした。
残されたミシャルは何をしたらいいか部屋を回りながら考えるたが、結局やる事も思いつかずにベッドに飛び込んだ。
…ふわふわだわ!
使い古されたベッドの硬さしか知らないミシャルは感動に打ち震えた。
ベッドと言ってもスプリングもなく、布団を1枚引いただけのベッドとも呼べない物で寝ていたミシャルにとって本物は格別だった。
自分の体重を受けてもびくともしないで、ミシャルを包み込む柔らかなスプリングは何度身体を跳ねさせても変わらずミシャルを受け止めてくれる。
掛けられたシーツは絹なのか、光沢から想像出来る手触りとしっとりした冷たさで。初めての感触はミシャルのテンションを上げるには充分だった。
「こんな素敵なお部屋を貸して頂けるなんて…!」
タンスには真新しいドレスと部屋着が数着用意されていた。
ドレッサーは三面鏡で、引き出しにはどう使うのかわからない化粧品が沢山並んでいる。
小さなキャビネットには編み物や裁縫の道具や時間を潰せそうな物がいくつか入っていた。
レコード盤のそばには花瓶と鉱石で出来た薔薇の花束が日の光を反射して、キラキラと輝いている。
シャンデリアは3段になっていて、こちらも負けじと光り輝く。
軽く見渡しただけでこんなにも過ごしやすい環境を整えられていて、ミシャルは見ず知らずの自分に何故こんなにも良くしてくれるのか疑問に思った。