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〇〇勇者は世界を正す
Ziem
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年11月17日
公開日
5,514文字
連載中
最強の邪神・ベルゼブブは、魔王である親友アスモルドから突然の相談を受ける。それは、「最近、勇者が全然来なくなった」という奇妙なものだった。暇を持て余していたベルゼブブは、魔王の頼みで人間界に視察へと向かうことに。

そこでは、勇者が持つはずの使命が忘れ去られ、かつての勇者の子孫である少年アステルが祖父と共に地下下水道でひっそりと暮らしていた。かつての栄光から遠く離れたアステルに出会ったベルゼブブは、彼を連れて「勇者とは何か?」を探る旅に出る。

強大な力を持ちながらも小さなハエの姿をしているベルゼブブと、不器用だが芯の強いアステル。奇妙なコンビの旅路で、二人は人間界の真実と、勇者たちが抱えていた悲劇の理由に迫っていく。果たしてアステルは本当に「世界を正す」勇者となれるのか?

プロローグ

漆黒の大空に浮かぶ禍々しい魔王城。その最上階にそびえる玉座の間には、凛とした空気が漂っていた。燃え盛る松明の明かりが赤々と照らす中、巨大な玉座に腰掛ける魔王が深いため息をつく。


「どうした、魔王。お前がそんな暗い顔をするなんて珍しいな。」


そう話しかけたのは、玉座の隣に突如現れた巨大な影。無数の羽音を立てながら現れたそれは、邪神ベルゼブブ。二本の角を生やした頭部に光る六つの目、そして威圧感すら感じさせる巨体。魔王ですら恐れる存在が、まるで隣人のように話しかけている。


「お前には関係のないことだ。」魔王は視線をそらした。


「ほう、魔王ともあろう者がこのベルゼブブに隠し事か。だが、俺には分かるぞ。何か悩みがあるんだろう?」


魔王はしばらく黙り込んでいたが、やがて重々しい声で口を開いた。


「……実は、ここ数百年、勇者が全く現れないんだ。」


「は?」ベルゼブブの六つの目が一斉に瞬きをする。「いや、待て。お前、そんなことで悩んでいるのか?」


「そんなことではない!」魔王は拳を玉座に叩きつけた。「我が人生において、勇者との戦いこそが最大の楽しみだったのだ。それがここ最近、奴らがまるで現れない。これでは、我が名を歴史に刻むこともできぬではないか。」


ベルゼブブは呆れたように肩をすくめた。「忙しすぎて、人間界を覗きにも行けないんだな?」


魔王は恥ずかしそうに目をそらした。「……まあ、そうだ。」


「なら俺が代わりに行ってきてやるよ。」


「本当か?」魔王の顔に微かな希望の色が浮かぶ。


「ああ、暇つぶしにはちょうどいい。勇者がどこに隠れているのか探してきてやるさ。ただし――」


ベルゼブブはにやりと笑った。「人間界の様子があまりに退屈だったら、そいつは俺の娯楽用に少し弄らせてもらうぞ?」


魔王は深い溜息をつきつつもうなずいた。「……仕方あるまい。頼む。」


そうしてベルゼブブは、邪悪な気配を消し去り、自らの姿を小さなハエに変えた。


「よし、人間界に行ってくるぜ。久しぶりに、少し遊ばせてもらおうじゃないか。」


羽音を立てながらベルゼブブ――いや、今はただのハエとなった彼は、人間界へと飛び立っていった。


そして彼がたどり着いたのは、信じられないほど繁栄した首都だった――。

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