俺にチョコくれ。
だれかチョコくれ。
お願いだ。
義理はもう飽きた。
だれか本命のチョコを
愛とともに
俺にください。
どうかください。
――――――
『第2話 出席に決まってるだと〜?』
会社の飲み会。
幹事に出欠を聞かれない。
「あの? 俺の出欠確認は?」
「お前、彼女もカミさんもいないんだからどうせ出席だろっ! なっ!」
はいはい。
いつもと同じの
出席で良いです。
――――――
『第3話 妹と』
妹の買い物に付き合わされた。
妹が俺と買い物に行きたい理由は分かっている。
『ただの小遣い目当て』かも?
俺が妹に欲しいものを買ってやる。
『荷物持ち』かも?
荷物ぐらい持ってやるよ。
『ランチをおごって欲しいだけ』かも!
まあランチぐらいおごってやろうじゃないか。
たまにはな。
今度はこの店か?
俺には場違いなショップに妹と入る。
あれこれ試着しまくる妹。
待つだけの俺。
ギャル風の店員が、服を試着した妹と俺に放った衝撃の一言!
「娘さんによくお似合いですよ〜」
グサッ。
俺はコイツの父ちゃんではない。
俺はアニキだ。
――――――
『第4話 二つ空いた席に』
俺は会社の用事で
山手線の電車に乗った。
ラッシュ時間を
とうに過ぎているので
とりあえず
席に座れた。
この車両に
空きの席は二つ。
次の駅。
一人だけ乗って来た。
ちょー美人じゃん!
めっちゃ好みだ!
俺のドンピシャ!
俺の隣りが空いてますよ〜。
ドキドキドキドキ。
まあ。
そりゃあそっちに座りますよね?
俺好みの美女は
爽やか青年の横に座りました。
切な〜〜い。
――――――
『第5話 会社の同僚の結婚式』
会社の同僚の結婚式。
ちょっと
出会いを気にして
昨日は
ちょっと奮発してさ
いつもより値段の高い床屋で
散髪してきた。
ふだん
つけもしないコロンを控えめに
すこぉしだけつけてきた。
おい。
なんでこんな席順なんだ!
いつものオジサンしかいないじゃないか。
会社のいつもの飲み会と変わらないメンバーしかいない。
ああ。
向こうのテーブルはいいなあ。
華やかで。
かわいい子もいるじゃんか。
新郎新婦のご友人席のテーブル。
俺もあっちに行きてえな。
ちょっとは独身の俺に気を使え!
ご祝儀返してくれ。
――――――
『第6話 彼女とキスできるかな?』
あれはいつの日か。
学生時代の友達の紹介で
出会った君。
俺を好きだと言ってくれた。
とても控えめで
かわいい君は
つぶらな瞳。
俺も初めての彼女で
嬉しくって
嬉しくって。
デート場所もさ
ネットとか雑誌で
研究してさ。
ハハハ
楽しかったなあ。
だけど
一年も進展がなくって。
いや
あのさ
手はたまには
繋いだけど。
恋人同士なんだし
俺も普通にその時は若いから
大好きな彼女といたら
そりゃあさ
キスぐらいしたいじゃん?
いや
正直
他のあれこれだって
この子とならって
会う度に
どきどきしてましたよ。
でもビビリな俺は彼女に
何も出来ずじまい。
抱きしめたりしたいんですが。
重ねて言いますが
俺たちは一年も付き合ってます。
あれは
動物園デートの日でした。
メインイベントに
冬の花火が上がるんですよ。
はい。
雑誌で調べました。
今日こそはと思ってました。
必ず今晩は
この子とキスしてやろうじゃんかと
気合を入れてましたよ。
周りのカップルたちは
そりゃあ盛り上がってます。
うらやましい。
じゃあ
俺たちも……
俺は
彼女の肩に優しく
手を置いて
キス
バッチーン!
えっ?
俺の左頬がなぜだか痛いんですけど?
「そんな人だと思わなかった!」
はっ?
俺はキスするどころか
一年も付き合った彼女に
やっとキスしようとしたら
平手打ちを
くらわされ
彼女は走って帰って行きました。
切な〜い!
いやはや
いい思い出です。
こんなんでも。
やっぱ
切な〜い!
――――――
『第7話 チョコもらえました』
バレンタインの
本命チョコもらったよ。
会社にたまに来る
うちの得意先の社長の秘書の子。
オジサン顔が好きなんだって。
めっちゃ貴重な価値感の子〜。
わ〜い。
俺のこと好きなんだって。
どうしようかな。
付き合おうかな〜。
うそうそ。
俺には
選択肢なんか
ないもんね〜。
付き合っちゃうに
決まってるじゃ〜ん。
君のことを大事にするぜ。
ふっふっふ。
今日は切ないことも
情けないことなんかも
ないもんね〜。
――――――
『第8話 チョコもらえました Part2』
俺はウキウキ。
会社から家に帰って来た。
ワイワイワ〜イ。
この上ないハッピーな気分で
秘書のあの子からの
バレンタインチョコの箱を開ける。
「はあっ?!」
はあ〜。
がっくし。
そうだよなあ。
小さな星型のチョコとメッセージカードが入っていた。
【ホントはぎりぎり義理チョコです】
どういう意味だよ〜。
「好きです」ってあの笑顔の告白は
社交辞令かよ。
まあ世の中そんなに
チョコみたいに甘くはないかあ。
バリッと食った秘書の子からの
義理チョコは
ビターで焦げた味。
一応は手作りなのか?
失敗作なのか?
俺のは誰かのついでか?
切な〜〜い!
――――――
『第9話 今年もやっぱり』
チョコくれ。
俺にチョコくれ。
俺に愛のあるチョコをくれ。
まだまだ受付けちゅう。
義理チョコは
増えるばかり。
どんどんどんどん
義理チョコばかり
増えるばっかり。
もう
本命チョコなんて
諦めましたけど。
ぎりぎり義理チョコで
今年は満足だ。
ちょっとの
ドキドキと淡い期待と夢を
ありがとう
秘書の子よ。
おっ!
やべえ。
ひきずってんのか。
秘書の子のこと。
切な〜〜い!
――――――
『第10話 ハッピーなバレンタイン♡?』
今日はバレンタインですね。
皆さま悲喜こもごも
おありでしょうが
俺にも今日はいろいろありました。
このあいだ結婚式を挙げた同僚が神妙な面持ちで俺を呼び出した。
「今日は仕事帰りに嫁さんと飯を食うから一緒に来てほしいんだ」
「やだよ。なんでラブラブ夫婦とバレンタインに飯なんか食いに行くんだよ。のろけ話にあてられるだけじゃんか」
「まあまあ。焼き肉の食い放題が三名からでさあ」
「仕方ねえなあ」
まあ焼き肉は行きたかったから。
同僚夫婦に付き合うことにした。
夕方になり珍しく定時で仕事をあがれたのでそのまま同僚と焼き肉屋さんに繰り出した。
同僚の奥さんは店の前で待っていた。
「こんばんは」
「こんばんは」
新婚ホヤホヤの可愛らしい奥さんがうらやましすぎる。
夫婦の二人が俺には眩しいぜ。
店に入ると同僚が
「カミさんの友達だよ。覚えてるか?」
俺は急に言われて一瞬なにがなにやら分からなかった。
しかも。
「あっあのこれっ! バレンタインのチョコです!」
その身長の小さな可愛らしい子が俺にチョコを差し出してきた。
「えっ? 俺に?」
――――――
『最終話 ハッピーなバレンタイン♡ 呟きラスト!』
「えっ?」
また騙されてんのかもしんない。
秘書の子の嘘がよぎる。
「あっ、ありがとうございます」
俺はチョコをとりあえずいただきました。
俺はたぶんこの時キョトンとした顔をしていたと思う。
「なんだよ〜、その態度は。忘れてんのお前っ!」
えっ? なに?
俺は焦った。
なにを忘れてんだ?
俺は?
焼肉屋の個室の畳にとりあえず皆が座る。
この五分後に、俺にとんでもない事が起こる事になろうとは、思いもよらなかった。
ここにいるのは四人なので、俺の隣りにはチョコをくれた可愛らしい女の子が座った。
その子は顔が真っ赤だ。
「お前さあ。俺たちの結婚式で彼女の折れちゃったヒールを直してやったんだって?」
「ああ。そういや。結婚式じゃあ酒を結構飲んでたから忘れてた」
「私。一目惚れしちゃいました。あなたに」
はあ―――――っ!?
本気ですか!?
正気ですかっ!?
本当ですかあっ?
可愛らしい目の前の女子が真剣な顔つきで俺にそう告げる。
「えっ?」
「付き合ってください」
「えっ? 本気で?」
俺はパニックになった。
「まあそういうことだから。カップル成立な? 彼女にはお前の顔が男らしくて素敵なんだとよ」
同僚はニヤつきながら俺にそう言うと焼肉屋のメニューを開き出した。
俺は信じられなくて放心していた。
俺に幸せの女神がやってきたよ。
「返事は〜?」
同僚の奥さんがニヤニヤしながら俺をせっついてくる。
「俺なんかで良いの?」
「はいっ、あなたが良いんです」
「えっ、俺で良いんだ……」
「はい、あなたが好きです。付き合ってくださいっ!」
こうして突然俺はハッピーになった。
「あ、あの〜。ありがとうございます。喜んで」
俺は満面の笑みで彼女に応えた。
本命チョコをもらえたな。
そういや。
俺ってヤツは、情けなくて、老けてみられて
恋愛も、いつもうまくいかなかったけど。
今日はバレンタインデーです。
俺はようやく久々に本命チョコをもらえました。
うひゃっ、ラッキー♡
めっちゃ、ハッピーだぜ。
おわり♪♡