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わたしの居場所

仕事でミスをした。

ミスと言っても、気がついた同僚がフォローしてくれて回避できたような、小さなものだった。

同僚は、

「貸しイチね。今度スイーツ」

と笑って済ませてくれたけど、胸の奥に小さいトゲが刺さったような気持ちになってしまった。


そんな時は趣味のイラストを描いて、SNSにアップするに限る。

フォロワーのみんなは、わたしの描いた絵を評価してくれる。

「現実逃避」と人は言うかもしれないが、それがわたしの疲れた心の癒しどころのような物だった。




…また仕事でミスってしまった。

これも大したミスではなかったのだけど、その尻拭いを後輩にしてもらう羽目になってしまった。

「本当にごめんね、今度何かおごるよ」

せめてもの詫びにわたしがそう言うと、後輩は

「いいですよーそんなの。お互い様ですから」

と、カラカラと笑って辞退されたけど、わたしの心はグラグラと揺らいだ。


…こんなにミスばかりして、わたしは不要な人間なのかもしれない


そう考え始めるとどんどん後ろ向きな考えになってしまい、自分の背後で雑談をしながら笑っている同僚の声すら「わたしのことを笑っているのでは…」と勘ぐるようになってしまった。


そして仕事だけでなく、趣味のSNSに対しても、

-どうせ『いいね』をつけてくれるのはうわべだけで、本当は少しも『いい』とは思っていないんだ-

と考えるようになってしまい、絵を描くのを止めてしまった。




通勤電車に揺られていると、

「ねぇねぇ、この絵よくない?」

と、立っているわたしの前に座っている女性が話す声が聞こえた。

「そうかなあ、特にいいとも思わないけどなぁ」

相手がそう言うと、

「確かにすごく上手ってわけじゃないけどさ、落ち着く絵柄って言うのかな…ずっと見ていたくなっちゃうんだよね。最近更新してないみたいだけど」

と女性の方が返した。


…一体そんな風に見てもらってるなんて、誰の絵なんだろう。

失礼してスマホの画面を盗み見させてもらったら、わたしがアップしていた絵だった。

「『いいね』とフォローしちゃおーっと」

たったそれだけのことだったけど、『わたしのしていることは認められていたんだ』と思い直すことができた。


翌日、上司に呼ばれた。

「君の仕事のことなんだけどさ…」

『あぁ、お小言をもらうのか…』と思っていたら、

「お客様からとても評判いいよ。丁寧な仕事だって」

と褒められた。


…なんだ、勝手に『居場所がない』と思っていたのは、わたしだけだったのか…

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