スマートフォンにセットしたアラームの音で、俺は目を覚ます。
スマートスピーカーにお気に入りの音楽をかけるよう命令し、朝食を食べて身支度をしながらスマートウォッチに今日の予定を登録して、出社の準備完了だ。
今や世間に「スマート機器」が数多く出回って、生活に欠かせない道具の一部となっている。
スマートフォンは様々な情報を伝えてくれ、スマートウォッチは予定を逐一知らせてくれる。
電子レンジはおすすめメニューを伝えてくれ、スマート冷蔵庫は中身の趣味期限まで知らせてくれる。
世の中の生活は「スマート機器」で成り立っていると言っても過言ではない。
『最近睡眠時間が減っているようです』
スマートフォンの健康管理アプリが伝えてくる。
最近仕事が忙しいせいもあって、確かに生活が少し乱れがちになって来てはいた。
当然気にしているが、なかなかそうも行かない。
どうやら、俺自身の生活がスマートにはなりきれないようだ。
そしてそんなある日…
『昼食の時間です!』
会議中、突如俺のスマートフォンが叫んだ。
いつも通りの時間に昼食に行かないせいか、スマートフォンの健康管理アプリが「警告」を発したのだ。
それが引き金になって会議は終了になって昼食を食うことができたが、一緒に課長からお小言も食らってしまった。
“どういうつもりだ?”
仕事から帰ると俺はアプリを「問い詰め」た。
『いつもの時間より遅れていたので、お知らせしました』
当たり前のように返事を返した。
言っていることは解らないでもないが、また今日みたいなことが起こってもいい気分はしないので、アプリを削除した。
『昼食の時間です!』
今度はスマートウォッチが叫んだ。
クラウド上にデータが保存されているようで、今度はスマートウォッチが知らせてくれた。
スマートウォッチからもアプリを削除した。
『お風呂の時間です』
給湯システムが勝手に湯船にお湯を張る。
『温め時間が足りません』
電子レンジがぬる燗を熱燗にする。
『ネットを見過ぎです』
パソコンが勝手に電源を落とす。
『就寝時間です』
スマートスピーカーが音楽を止めて、電気を消す。
少しでも「いつもより違ってくる」と、揃いも揃って俺を「いつも通り」に動かそうとするようになった。
これらの機器をスマートに使っていると思っていたが、実は俺が使われていたのかもしれない。
いつかスマート機器に管理されるようになるのだろうか。
真っ暗な部屋の中で、俺はそんなことを考えていた…