「…サンタ?」
「そう」
「誰が?」
「俺が」
目の前に立つ宅配便屋風の男を見て、俺は頭を抱えそうになった。
そもそもベランダの窓を「トントン」と叩く音にひかれて、窓を開けたのが失敗だったのかもしれない。
そうしなければ、こんな不審極まりない男と会うこともなかったのだから。
かと言って、このまま追い返すのも忍びないので、コーヒーメーカーに残っていたホットコーヒーを振る舞ってやる。
<自称サンタ>は、
「あったまるねぇ」
そう言っておいしそうにコーヒーを飲んだ。
「さて、本題だ」
コーヒーを飲み干した<自称サンタ>が口を開く。
「本題?」
俺が聞くと、
「お前さんにこれを渡さんとね」
そう言いながら小さな包みを差し出してきた。
「なにこれ?」
「クリスマス・プレゼント」
「俺に?」
「そう、サンタさんからのプレゼント」
「なんで俺に?」
「お前さん、今年一年『善く』していたからね、サンタさんからプレゼント」
なんだか釈然としない。
「大体、サンタのプレゼントは子供に渡すもんなんじゃないの?」
俺が素直な疑問を口にすると、<自称サンタ>は
「そんなことはないぞ?老若男女や人種国籍を問わず、『善く』している人にはプレゼントを渡すんよ」
そう答えた。
「『善く』なんてしてたかなぁ」
「本当に『善く』している人は、意外と気づかんのよ」
<自称サンタ>はそう言うとコーヒーカップを掲げて、
「こういうさりげないところに、人の本当の『善さ』が出るもんなんよ」
軽くにこりと笑った。
「だから『善いこ』のお前さんに。ほれ受け取れって」
そう言って小さな包みを押し付けてきた。
特に断る理由もないので、ありがたく頂戴することにした。
「じゃあ、俺の仕事はこれで終了。邪魔したね」
<自称サンタ>はそう言って踵を返しかけたが、
「あ、忘れてた。これにサインかハンコちょうだい」
と差し出してきた紙には、「受領証」と書いてあった。
宅配便かよ…
心の中で苦笑いをしながらサインをすると、
「はい、確かに。じゃあ、良いクリスマスを」
<自称サンタ>は今度こそ背中を向けて、ひょいっとベランダを乗り越えていった。
「え!?ちょっ…!ここ四階!」
思わずベランダに飛び出すと、下からトナカイに牽かれたソリが浮き上がってきた。
ソリに乗った<自称サンタ>は、
「コーヒーおいしかったよ、じゃあな!」
そう言い残して満天の星空に消えていった。
ちなみにプレゼントは、某大手サイトのギフトカー5,000円分だった。