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まだ見ぬ君へ

この手紙を見ている「まだ見ぬ君」へ。

君がこの手紙を見ているときには、もしかしたら僕はもう…

君が生まれる所に立ち会えないかもしれないと思うと悔しい。


君が母さんのお腹にいる時から「女の子」だというのはわかっていたよ。

きっと母さんに似て可愛いんだろうな。

幼稚園、小学校、中学校、高校…

君が可愛く大きく育っていく姿を見ることができないかもしれないと思うと、本当に残念だ。


まだ名前も考えていないと言うのに、これはあまりな仕打ちだ。

この世に神はいないのか、と嘆きたくなってくる。

せめて君が生まれてくるまでは…と思わずにいられない。


でも、もし父さんに何かあっても、君は明るく元気に育って欲しい。

それが父さんからの願いだ。



まだ見ぬ君へ。

父より。




「ねーママー。この手紙なんだけど…」

あたしが台所で夕飯の準備をしているママに話しかけると、ママは一瞬手を止めてあたしが見せた手紙を見る。

「その手紙は…」

一瞬ママの言葉が詰まる。

「それはね…ママがあなたを生む時に入院していた頃にパパが書いたの…あの時パパは…くっ…」

そう言って向こうを向いて肩を少し震わせた。

「ママ…」

あたしが声をかけると、しばらくしてママは

「…あはははははっ!パパったらこんな手紙書いてたのよねー!あははははは!」

と我慢できずに笑い出してしまった。

あたしは軽くため息ひとつ。

ママが笑いすぎて話ができなさそうなので、パパに聞いてみる。

「ねーパパ。この手紙なあに?」

するとパパは

「…パパの身に何かあった時のために書いたんだ」

と、ビールを飲みながらバツが悪そうに答えた。

「何が『何かあった時のため』よ。ただの食あたりじゃないの」

すかさずママが目尻に涙を浮かべながら突っ込む。

「だって仕方ないだろ?アニサキスにやられるなんて生まれて初めての体験だったんだし」

「でも普通ここまでする?実際にあの後すぐに良くなったんだし。お医者さんが呆れてたわよ」

「うるさいなぁ」

「昔のことだもんねー。あ、ご飯もう少しかかるから、それまでこれつまんでて。はい」

ママがそう言ってパパの前に、おつまみ代わりの自家製しめ鯖を出した。

「おー、これこれ。ママの作るしめ鯖、おいしいんだよなー」

パパは機嫌を直して、ニコニコしながら箸をつける。

ママが少し呆れながら

「また当たっても知らないわよ?」

と言うと、

「そうしたらまた手紙を書くよ。今度は二人に宛てて」

パパはそう答えて、しめ鯖を口に放り込んだ。 

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