「ケイちゃん、この間の『グランピング』動画、とても評判良かったよ!」
「本当ですか、よかったです」
「やっぱりアンケートを取り入れるようになってから、人気が出始めてきたね」
「そうですね、この方法は当たりでしたね」
「この調子で、また次の企画を配信しようね」
「はい、頑張ります!」
わたしは今、「ケイ」という名で動画配信を行なっている。
自分で言うのもなんだけれど、そこそこ人気の配信者になっている。
少し前までは動画のウケが今ひとつよくなかったのだけれど、マネージャーの
「視聴者に寄り添う方向で行こう」
という提案に乗って、アンケート方式で配信内容を決めるようになった。
この方式は結構当たって、おかげでチャンネルの人気も出てきた。
ある意味「アンケート様さま」ではある。
「ケイちゃん、次の企画が決まったよ」
「今度は何ですか?もしかしてお料理配信ですか?」
「当たり。今回は『ミルフィーユを作る』動画だよ」
「ミルフィーユ…ですか」
「あれ?気に入らなかった?」
「そうですねぇ…できればもっとわたし好みで、得意分野の和風料理を作りたかったなぁ…と思って」
「でもアンケートのトップが『ミルフィーユ』だったから、今回はこれで行くよ」
「ちなみにわたしが出した『里芋の煮っころがし』は…」
「最下位だったねえ」
「…そうですか」
「ケイちゃん、次の企画が決まったよ」
「…次は何でしょうか?」
「『ケイちゃんの家でベランピング』配信」
「わたしの家で?でもわたしの家はおんぼろアパートだから、そんなことできないですよ?」
「大丈夫、新しく家を借りてあげたから」
「え?」
「だからケイちゃんはその家に引っ越してもらって、そこから配信するよ」
「…」
あのアパート、おんぼろだけれど気に入っていたのにな…
「ケイちゃん、次の企画が決まったよ」
「…今度は何ですか?」
「『ケイちゃんのご両親』をゲストに招いて、親子配信」
「はあ!?わたしの両親は青森住まいですよ!?わざわざ呼び寄せるんですか!?」
「いやいや、こっちで『ケイちゃんにふさわしいご両親』を用意するから、後は台本に沿って配信してくれればOKだよ!」
「…」
「これもアンケートの結果なんだから、きちんと応えないと」
アンケート、アンケート、アンケート…
人気のためならこれでもいいと思ってきたけれど、このままでは「自分」がなくなっていく感じがする…
このままでいいのだろうか…
「ケイちゃん、次の企画が決まったよ」