横断歩道で転んだ体を起こしたら、目の前にトラックのヘッドライトが突っ込んできた。
ライトの眩しさに視界が真っ白になった次の瞬間…
壁も床も天井も真っ白な部屋に僕はいた。
目の前には大画面テレビがあって、ほどなくして映像が流れ始めた。
…ああ、これが「走馬灯」ってやつか…
妙に落ち着いた気分で映像を見る。
−運動会のかけっこで一等賞をとった小学時代
−気になるあの子にプレゼントを渡して、照れながら受け取ってくれた中学時代
−クラスメイトと楽しく文化祭の準備を進めた高校時代
−充実したキャンパスライフを送った大学時代
−何もかも順風満帆な社会人時代
うんうん、そうそう…じゃないちょっと待て。
「全部嘘っぱちじゃないか」
思わず口に出してしまった。
「えー、いいじゃないですか。どうせ『最期』なんですから、少しくらい演出があっても」
横からそんな声が聞こえたと思ったら、ビジネススーツを着込んだ女性が立っていた。
「あ、失礼いたしました。わたくしこういう者です」
彼女はそう言いながら、名刺を差し出してきた。
「『幽限会社 SMT』の相馬さん?」
「はい。皆さんの『最期』に、こういった映像をお見せする仕事をしています」
「でもさすがにここまでいくと、演出じゃなくて捏造だよ?」
「お気に召しませんか?」
「嘘八百だもん」
すると相馬さんはしばらく考えて、
「…じゃあ、『無修正版』をご覧になります?」
と提案してきた。
「そうだね、嘘偽りがない方がいいかな」
「わかりました、それでは」
改めて映像が流れ始めた。
−運動会を風邪で休んだ小学時代
−渡したプレゼントを、『キモい』の一言であの子に捨てられた中学時代
−文化祭の準備は使い走りばかりさせられていた高校時代
−二浪した上に奨学金まみれだった大学時代
−何とか入ったブラック企業でコキ使われた社会人時代
「…悲惨ですねぇ」
相馬さんが素直な感想を述べてくれた。
「まあ、こんなもんです」
僕もあきらめたように答える。
「さすがに少し、かわいそうになってきました」
「ご同情、痛み入ります」
「あの、せっかくの『最期』なんですから、少しだけ演出した映像をご覧になってみません?」
「うーん…」
「ほら、『嘘も真実と混ぜるとリアルになる』って言いますし」
「…そうだね。全部嘘じゃなければまだ楽しめるかもしれないね」
「わかりました、では改めて」
相馬さんが頷くと、三たび映像が流れ始めた。
さて、次はどんな走馬灯を見せてくれるだろう…