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不思議な拳銃

今日も最低最悪上司に怒られた…というか、パワハラのターゲットにされた。


−ちくしょう、やりたい放題やりやがって…いつか痛い目に遭わせてやる−


そんなことを考えながら歩いていたら、爪先に何か固い物の当たる感触があった。

視線を移すと、一丁の拳銃が落ちていた。

しかもなぜか、ピンクのリボンが結ばれている。

思わず拾い上げてみると、ずしりとした重みが手の中に伝わってくる。

どうやら本物のようだ。


よく見ると、ピンクの不似合いなリボンに何か書いてあった。

読んでみると

<ガマン ガ デキナク ナッタラ ツカエ>

と書いてあった。


−そうか、これであいつを−

そう考えて、拳銃をカバンにしまって家に帰った。


次の週末。

本当に拳銃が使えるのか確かめに、山奥まで試し撃ちに行った。

拳銃の威力は大したものだったが、あまりに威力が大きすぎて、一発試し撃ちをしただけで腕を痛めてしまった。

ついでに言うと、山奥までの行き帰りで全身が筋肉痛になってしまった。


こんな有様では、「あいつに一発」どころではない。

まずは拳銃を使える筋力を身につけるため、トレーニングを始めることにした。


トレーニングの成果は上々で、三か月もすると全身に筋肉がつき始めてきた。

これも「あいつを痛い目に遭わせる」という、はっきりした目的があるおかげだろう。

その間もあいつのパワハラは続いていたが、

−あともうちょっとの辛抱だ、今に見てろよ−

そう心の中で呟き続けて、日々のパワハラに耐えてきた。


半年が過ぎる頃。

気が付いたら「拳銃を撃つため」ではなく、「体を鍛える」方にトレーニングの目的が移っていた。

そのせいか、拳銃のことが頭から離れることも増えてきた。


そんなある日、あいつのパワハラが行き過ぎて、さすがに腹に据えかねるようなことが起こった。


−もう我慢の限界だ!−


いよいよ覚悟を決めて、久しぶりに引き出しの奥にしまっていた拳銃を出そうとしたら、引き出しの中から拳銃が消えていた。

その代わり、拾った時と同じピンクのリボンが一本だけ残されていた。

リボンを手に取ってみると、

<ヨウズミ ニ ナッタ ミタイ ダカラ キエル コトニ スルヨ>

と書いてあった。


それを読んで、改めて気づいた。

…確かに拳銃なんて使うのは間違いだよな、そもそも犯罪だし…

ギリギリのところでそう思い留まらせてくれた不思議な拳銃に少し感謝しながら、引き出しを閉じた。







そして次の日。

最低最悪上司をフルパワーでぶん殴り倒してやった。 

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