「では―――
スタンピードは、かつて我が国が召喚した
1人の人間によるものだったと?」
「彼……トーノクーブの残した記録に
間違いが無ければ、そうでしょうね」
後日、俺たちはダンジョンの調査について
報告を行うため、
シーライド王国の国王に
「記録によると、およそ150年前の
召喚者だそうです」
「元の世界では医者であったそうですが、
攻撃系スキルが無かったため―――
その日のうちに追放されたとあります」
役人のような連中が、書類を片手に
王に説明する。
「役立たずと断じた召喚者に、
これだけの被害を出されたわけだ」
「あなたたちが撒いた種よ。
満足した?」
『無礼な!』『不敬だぞ!』という
ヤジが飛ぶが、
「事実―――だ」
王の一言で、
彼はそのまま先を促すように、
自国の役人風の連中に視線を向けると、
「ええと、彼らの報告では……
その元となったダンジョンは
崩落させたとの事。
し、しかし中にいた魔物どもは―――」
「どうした?」
国王が聞き返すと、その役人は震えた声で、
「そ、その魔物どもはダンジョンの外へ
逃がしたと」
そして再び場内がざわめく。
「どういう事だ!?」
「そんな事をすれば、またスタンピードが
起こるではないか!」
当然のように非難が浴びせられるが、
「彼らはあそこで、トーノクーブさん
主導の下、繁殖しやすい環境を整えて
いただけです。
あのダンジョンが無くなれば繁殖も
抑えられると……
だから彼らは見逃してやって欲しい
という、トーノクーブさんの遺志に
従ったまでです」
武田さんがそう説明するも、
「だが、その魔物どもが別のダンジョンで
繁殖しやすい環境を再構築したらどうする
つもりなのだ!?」
「全滅させておけば、その可能性も
無くなったであろうに」
あくまでも安全保障の観点から、あちらの
非難は止まらない。
そこで俺が一歩前へ出て、
「報告にもあるはずですが、それが
トーノクーブさんの遺志でした。
テイマースキルの方を通じて―――
もう王都や町、村を襲う必要は無いとも
魔物たちに伝えてあります。
ですから、スタンピードの心配はもう
ありません」
そう説明するも、
「もうスタンピードが無いと、どうやって
保障するのだ!」
「相手は魔物だぞ!?
その約束はどれだけ有効なのだ!?」
「そんなに魔物が信用出来るのか!」
それを聞いて、他の召喚者たちも
ウンザリした表情になるが、
「……っせえなあ」
俺がボソッと言うと、一瞬場が静まり返り、
「今何と言った!?」
「子供のクセに生意気な!」
「あまりに不敬であるぞ!!」
と、次々に
それに対して俺は片足を上げると、
バン!! という音と共に床を攻撃する
ように踏み、そこで
「ちょっと静かにしてもらえませんか?
オーガやゴブリンだって、交渉する時は
静かでしたよ?」
それから俺は、一呼吸すると、ゆっくりと
口を開いた。