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第51話・ダンジョン攻略06・トーノクーブの手記03


「もう読み終わったのか?」


「いいえ、まだ先があるみたいだけど」


シーライド王国の召喚者に、白波瀬しらはせさんが

答え、


「早く続きを……

 と言いたいところだが、


 気が滅入めいってくるな。

 こんな内容だと」


熊谷くまがやさんの言葉に、

そこにいる全員がうなずき合う。


「あと少しですから」


「じゃあ、読みましょう」


そして俺と武田さんは、隣り合って

音読を再開した。




―――トーノクーブの手記・続き―――




彼らは私に代わり、復讐をげてくれた。

そしてまた二度三度と王都を襲った。


その度に私は胸がすく思いをしたが、

年を重ねる毎に、後悔の念が強くなって

いった。


私は医者なのだ。

人を、生き物を救うのが使命だったはず。


私は彼らを救うのと同時に、復讐の

道具にしてしまった。


王国に与えた被害も甚大じんだいだろうが、

彼らも多くの犠牲を出している。


こんな事のために彼らを治したのではない。

こんな事のために彼らを助けたのではない。


私はなんとおろかな事をしてしまったのか。


ここまで読んでくれた者にお願いがある。

この文字が読めるという事は……

私と同じように召喚された人間であろう。


同郷の者として頼みたい。


もしここにいる魔物たちが、今でも

王都を襲っているのなら―――

その役目から解放してやって欲しい。


私が死んだ後まで、そんな事を続ける

必要は無い。


この洞窟を潰せば、繁殖は抑えられる

だろう。

追い払うていで、彼らをどこかへ逃がして

くれないだろうか。


そして……

そして、もし彼らと意思疎通出来る者が

いれば伝えて欲しい。


すまなかった。

愚かな人間同士の都合に巻き込んで、

申し訳なかった。


望んでこの世界に来たわけではないが、

お前たちと出会えて幸せであった―――

と。




そこまで読み上げた時、誰からともなく、

重苦しいため息がして……


そしてそれは全員に感染していった。


「つまり、スタンピードというのは、

 僕たちと同じ召喚者が起こしていた

 現象だったんですね」


「そういう事になるわね―――

 意図的にでは無かったんでしょうけど」


俺の言葉に武田さんが同意し、


「ますます殺せないよ、こんな事を

 聞いてしまったんじゃ」


「そうね……

 とにかく、テイマーが来るまで

 待ちましょう」


熊谷くまがやさんと白波瀬しらはせさんの

言葉に、全員がうなずき―――

しばらくここで待機する事となった。





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