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第50話・ダンジョン攻略05・トーノクーブの手記02


―――トーノクーブの手記・続き―――




それからやがて、困った問題が発生した。


私という医者がおり、また教えた技術で

彼らの生存率が飛躍的に高まり、


10年もすると、この洞窟いっぱいに

ゴブリンやオーガが繁殖してしまったのだ。


もっと大きな洞窟に移動するか、それとも

奥を掘り進めて拡張するか悩んでいた時、

彼らの半数がいなくなった。


『数の調整のため、自ら出て行ったの

だろうか?』

確認してみると、彼らの中でも特に若い

オスを中心に、姿を消した事がわかった。


だが、この頃になるとある程度意思の疎通も

そこそこ出来るようになっていたので、

私が身振り手振りで様子を聞くと、


『狩りに出かけた』という答え。


あんなに大勢で? とも思ったが……

彼らは亜人であり人間とは異なる。

私の知識では理解出来ない事も

あるのだろう、と思って深く考える事は

しなかったのだが、


10日後、すでに日も暮れた頃。

ケガをしていない者など1匹もいない

という体で彼らは帰還し、私は大慌てで

彼らの治療に当たった。


数も大幅に減っており、いったい何が

あったのかと心配して彼らに問うと、

その中のリーダー格らしきオーガが

私の手を取って洞窟の外まで誘い、


すでに暗くなった外で、ある方向を

指差した。


そこで私が目にした光景は―――


遠くに、夜空を焦がすほどの火災。


あの方角はシーライド王国の王都。

忘れもしない、私をこの世界へと

拉致した場所だ。


つまり、彼らは王都まで略奪に行ったの

だろう。

もちろん、その途中の町や村も被害に

あった事は想像にかたくない。


しかしその時私は、思わず大声を

出していた。


大声で笑い、喜んでいたのだ。

それはもはや叫びにも近かった。


あの憎きシーライド王国が被害を

受けている。


私を自分勝手な都合で召喚して

おきながら、役立たずと追い出した

あの国が……


心の底から、ざまあみろと思った。


そして私を外へ連れ出したオーガに

抱き着き、感謝の言葉を述べた。


『よくやった!

 よくやってくれた!!


 ありがとう!

 私の代わりに復讐してくれて

 ありがとう!!』


そのオーガもまた、私がお礼を言っている

事を理解したのか―――

コクコクとうなずき、嬉しそうな顔をした。


それからというもの、彼らは洞窟いっぱいに

なるまで繁殖すると……

王都に至るまでの人間の集落を襲うように

なった。


そして略奪して来たものを私に差し出し、

私はそれを使って、さらに彼らの暮らしが

良くなるようにつとめた。


もっと、もっと王国に損害が出る事を

祈りながら―――




「……はー……」


ここまで読み進めた時、俺は思わず

ため息をついた。


見ると、武田さん他―――

アスタイル王国、シーライド王国の

召喚者も、微妙な顔でお互いの顔を

見つめていた。





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