―――トーノクーブの手記―――
我が名はトーノクーブ。
ジューデックという世界から来た。
いや、召喚されたのだ。
この世界のシーライド王国という
国とやらに。
この世界に来る前、私は医者であった。
そして私は、召喚された際に授かるという
力……
水魔法を手に入れた。
いつでもどこでも、新鮮で綺麗な水が
手に入る―――
その事を知った時、私は心の底から
喜んだものだ。
これと私の医者としての知識を合わせれば、
どれだけ活躍出来るだろうか、
そう思っていた私に突き付けられたのは、
役立たずという評価であった。
どうもこの世界には、
存在がいるらしく……
怪我や病気はそれで治ってしまうようで、
私のような、知識や薬で治そうという者は
いない事は無いが、治癒師よりも地位が
格段に低いのだという。
ならば元の世界に戻してくれと頼んだが、
召喚は片道のみらしく、
さらに、せっかく召喚したのに使えない
役立たずだと―――
王都から追放されてしまった。
それからの私は生きる事に必死であった。
医者として生計を立てようにも、まず
薬の材料を自分で手に入れなければ
ならない。
魔物が
素材を手に入れ……
それで作った薬を売って、細々と
暮らしていた。
このまま、この世界で
そう思っていたある日、
冒険者にケガを負わされたのであろう、
1匹のゴブリンの子供に出くわした。
その子は
冒険者たちの声がして―――
私はその子を自分のローブの中に隠した。
追いかけて来た冒険者にはしらを切り、
その後、私はその子に治療を施した。
助けてくれた事がわかったのだろう、
その子は何度もこちらを振り返りながら、
森の中へと消えていった。
それから数日後……
1匹の大きな魔物と
見ると、その傍らには自分が助けた
魔物がいて、大きいのはその親だと
思った。
治療した、と言ったところで言葉は通じず、
むしろ酷い事をされたと思ったのだろう。
だが私は自らの行為を恥じる事は無い。
このまま殺されるのも運命であろう、
そう思った時、
大きな魔物は、私に肉と果物を差し出し、
森の奥へと消えていった。
この時私は思った。
ああ、魔物ですら
それに引き換え、シーライド王国は―――
そしてその後、私が森で薬草や素材採取を
していると、今度は小さな子供を抱いた、
メスの亜人のような魔物がやって来た。
その子供はどうやら熱を出しているらしく、
私が調合した薬を飲ませると、
そのメスの魔物は私の手を取り……
集落へと私を連れて行った。
そしてそこで、私はそこの集落の
医者となり、彼らの病気や怪我の
面倒を診るようになった。
言葉による意思疎通は図れなかったが、
私に感謝し、いろいろと世話を焼いて
くれた。
この頃には、私はこの世界の様々な
薬草や素材をある程度わかっており、
またいくら水魔法が出せると言っても、
私が死んだ後は心もとない。
そこで私は、彼らに洞窟へ住まいを
移すよう提案した。
幸いな事に、彼らは湧き水のある
洞窟を見つけ、
さらに発光するコケのような植物を
私は見つけ出し、それらを洞窟の
中で育て、
火をおこし、水で煮炊きする事などを
教え、
こうすれば安全な物が食べられる、
という知識を彼らに学習させていった。
最も面倒なのでそのまま生で食べる
者も多く、また体が頑丈なので、
衛生についてどう理解していたかは
はなはだ疑問だが。
「…………」
「…………」
ここまで俺と武田さんが読み上げると、
全員が微妙な表情となり、
「つまり、あの玉座に座っていたのは、
俺たちと同じ召喚者か」
「でもそれと、スタンピードは何か
関係があるの?」
当然の疑問を口にし、
「と、とにかく先がまだあるんだよな?」
「早く読み進めてくれ」
シーライド王国の召喚者たちにも促され、
俺たちは再び手記に目を落とした。