「ダンジョンマスターが人間……
どういう事だ?」
「いや、それよりなぜ魔物たちは戦闘を
止めたんだ?」
玉座に座る骸骨、そしてまるで俺たちに
祈るかのような姿勢を取るゴブリンや
オーガたち。
さすがに魔物といえど、無抵抗の者たちに
攻撃は出来ず―――
召喚者たちも戦闘を停止する。
「意思疎通出来る魔法とか、
ありませんかね?」
ダメ元で俺が召喚者たちに聞いてみると、
「非戦闘系スキルだが……
確かテイマーがいたと思う。
その者にテイムさせて、事情を聞く事は
出来るだろう」
さっそく、シーライド王国の王都へ
使いが飛び、
俺たちはそのまま待機となった。
「どうして彼らは戦闘を停止したんで
しょうか」
不思議そうに周囲を見渡すが、
どうもゴブリンやオーガは、彼に対して
必死に何度も頭を下げているようで、
「玉座に対する攻撃を止めたから―――
ではないでしょうか」
「いや、止めるも何も……
相手はすでに死んでいるし」
彼の言う事に、
魔物たちを見回し、
「よっぽどこの人物が、彼らに取って
大事な人だったんでしょうね。
恐らくは彼―――
彼女かも知れないけど、死んでもなお
守り続けたいと思わせるような」
するとグギュルルルル~と、ゴブリンや
オーガたちのお腹からすごい音がして、
「と、とにかく何か作ります?
ちょうど台所もあるみたいですし」
武田さんがそう言うので、俺は手持ちの
荷物の中から、鍋やお玉を取り出し、
身振り手振りで魔物たちに説明すると、
彼らはコクコクとうなずき、貯蔵していたで
あろう肉やキノコ、野菜を持ってきて、
みんなで台所で食事を作る事となった。
「フゴー! フゴー!!」
「ピャッピャッ!!」
「プギイィイッ!!」
調査隊が持って来た調味料が、よほど
口に合ったのか……
彼らはすごい勢いで食べ始め、
「ほら、そっちも食べて」
「んー、子供の時は意外と可愛い
ものね」
女性召喚者たちは、負傷したゴブリンや
オーガ、またその子供たちに作った
ご飯を食べさせて回る。
すると一際大きい、恐らくリーダー格で
あろうオーガが―――
熊谷さんの前で土下座するように頭を
下げる。
「どうも何か感謝しているみたいだけど、
何を言っているのかさっぱり」
「多分、白波瀬さんの言う通り……
玉座やそこに座る人物を傷つけなかった
事を、感謝しているのでしょう。
恐らく彼らに取っては、神かそれに
準ずるほどの、恩義のある人だったの
ではないかと」
頭を下げたままのオーガに、どうした
ものかとその対応にこっちが
いると、
子供―――
ではなく、群れの中で一番老人であろう、
ゴブリンともオーガとも見分けのつかない
人物が出て来て、
「ん?」
本らしき物を差し出して来て、熊谷さんが
それを受け取る。
「木の皮で出来ているみたいだな。
こんなものがあるなんて」
すると、シーライド王国の召喚者たちも
寄って来て、
「何だこりゃ?」
「見た事も無い文字だな……」
「これも持ち帰って、後で調べないと」
そう口々に話す中、
「え? 読めませんか?」
「は?」
俺の目にはどう見ても、それは日本語で
書かれており、
「あー、多分それは―――
アスタイル王国の召喚者に、標準で
付けられた能力ではないかと」
武田さんがそう説明する。
「文字や言葉は、自動的に翻訳され……
理解出来るって話だ」
「多分、シーライド王国では―――
王国だけの言葉で意思疎通出来る程度の
機能しか付けられなかったのかもね」
熊谷さん、白波瀬さんが補足するように
そう言うと、シーライド王国の召喚者たちは
顔を見合わせ、
「まあ確かに、最初から奴隷もしくは
従属関係で呼ぶつもりなら……
王国以外の言葉は必要ないもんな」
「さすがにこっちも、魔物の言葉までは
翻訳されていないみたいですけどね」
俺が軽口でそう答えると、
「そんな事より、読めるのであれば中身を
教えてくれ」
そう言われ、俺と武田さんが顔をくっつき
合わせて―――
その中身を読んで、彼らに伝える事と
なった。