―――知っていますか?
あまり理不尽な事をされると、
ガマン強くなるとか、耐性が付くとか。
そんな事は無いんですよ。
理不尽な事に、非常に『
by
「……ここは?」
自分は確か、通勤電車の中にいたはずだ。
それがいつの間にか、真っ白い空間の中にいた。
『おめでとうございます。
あなたは選ばれました』
「!?」
突然、自動音声のような機械的な声が流れる。
『あなたはこれから、別世界『ミマーク』へ
転移されます。
あなたのステータスを確認し、必要と思われる
スキルをお選びください。
スキルを取得し終えますと、自動的に
『ミマーク』へ転移されます。
制限時間がございますので、後悔の無いよう
設定をお願いします』
女性のような声で淡々と現実を突き付けられる。
どうやら転移は確定で、そこは問答無用らしい。
しかしこういうのは疑って然るべきだ。
よく人並以上の力や、異能の力を得て―――
というのはセオリーだが、
それが果たして無条件で与えられるものなのか?
物語とかだとよく考えて選ぶ人間も中には
いるけど、
そもそも、『力』が与えられるのは確定な
わけで……
じゃあどうしてそんな『力』を与えてくれるの
だろうか?
という疑問の答えにはなっていない。
別世界へ行かせるからとか?
第一、人の意見も聞かないで自分の都合で
勝手に
元の世界に戻れない事も考えられるし、
家族や友人とも離れ離れになる。
拉致や誘拐と何ら変わらない。
果たしてそんな連中に、そういう気遣いや
慈悲があるものだろうか?
『間もなく制限時間となります。
お早めにスキル取得をお願いします』
そして俺、雨霧光郎の選択は―――
「……おお、召喚者の方々!
よくぞいらっしゃいました!!
どうか我々の世界をお救い頂きたく」
気が付くと、中世ヨーロッパのどこかの国の
お城のような建物の中にいた。
広い空間に高い天井、ゴテゴテした装飾。
そして鎧姿の兵士であろう連中に混じって、
いかにもな20才くらいのお姫様がこちらへ
大仰に歩み寄る。
周囲を見渡すと俺の他にも……
複数の召喚されたであろう人々の姿が見える。
「ここは……?」
「何か変なスキル選択画面を見たような」
まだ混乱している人もいる中、お姫様は
スッ、と頭を下げ、
「申し遅れました。
わらわはアスタイル王国の王女、
アンクと申します。
こちらの都合で突然お呼び出しいたしまして、
申し訳ございません。
どうかこの王国にお力を―――」
そこでザワザワ、と十数人ほどの召喚者たちが
顔を見合わせる。
よく見ると日本人だけじゃなく、外国人も
何人かいるようだ。
「異世界、というヤツか」
「どうやって自分の力を?」
質問が飛ぶと、彼女はニコリと笑って、
「ご自分の心の中で『オープン』と念じて
ください。
それでここに来る前に、取得したスキルを
見る事が出来るはずです」
するとまたあちこちから声が上がり、
「大賢者だ!
よっしゃー、これ真っ先に選んだんだよ!!」
「魔導王か。
魔法使いの上位だと思うから取ったんだが」
「アタシ、テイマー!!
こっちの世界にもモフモフさんいるかな?」
と、口々にみんなが話す中、あのお姫様が
俺に近付いて来て、
「ボクはどうかな?
『オープン』で見れない?」
ボク……確かに童顔だとは思うけど、これでも
もう
しかし何と言うか、お姫様という割には背が高い
というか―――
と思ったところで俺は違和感に気付く。
お姫様の目線が高い。
いや、周囲の人間と比べて自分が低いのか。
ふと、大きなガラス窓が目に入り、目を凝らして
自分の姿を確認すると、
「何だこりゃ」
思わず声に出てしまうほど、姿が変わっていた。
来ていた背広とかの衣服はそのままサイズダウン
して、小学校高学年か中学生くらいに……
ともあれ、子供の姿なら却って好都合かも
知れない。
警戒心を持たれないからな。
そこで俺は子供っぽく、
「あのう、『おーぷん』って何でしょうか」
「?? 何か選ばなかったの?」
「いえ、学校に通うために家を出たところ、
何か真っ白な空間にいて―――
その後はあまり覚えていなくて」
そして俺はやや首を傾げながら、
「『おーぷん』?
……何も出て来ないですけど」
俺の言葉に、アンク王女とやらは一瞬大きく
目を見開く。
そして少し離れたところで誰かを呼び寄せ、
何事か話し合い始めた。
「どういう事ぞ? グリーク。
自動召喚システムは完璧では無かったのか?」
「いえ、まさか……
恐らくあの子は気を失っていたのでしょう。
さすがに答えを得られなければ、システムも
対応しようがありませんよ。
想定外、というヤツです。
どれどれ―――
ああ、私の鑑定でもあの子のスキルは
確認出来ませんね……
ステータス欄は真っ白だ」
「じゃあアレはハズレか―――
まあ良い、いつものように処理するぞ」
何か魔法使いっぽいオッサンと話していた
ようだが、すぐに彼女は戻って来て、
「どうも手違いがあったようです。
あなたは何の能力も選ばなかったので、
非戦闘職という事になります。
そういう方々には別に避難して頂く場所が
ございますので……」
「家には帰れないの?」
あくまでも子供っぽくアピールしながら聞く。
「申し訳ございません。
今しばらく、この世界で待機して頂きます。
落ち着いたところで、またいろいろと要望を
聞きますので」
と、両脇から兵士たちに抱えられ―――
子供の姿の俺はそのまま、部屋の外へと運ばれて
行った。
それを見ていた何人かの召喚者は、
『あの子をどうするつもり!?』
『何をするんだ!』
と抗議の声を上げていたが、それもすぐ
小さくなっていった。