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もう…やめようかな…。

 日曜日の夕食時、俺は妻の聡美に弱音を吐いた。


「聡美さぁ…」


「どうしたの?」


「今、下らない小説を書いているけど、そろそろ行き詰まりそうだから、手を引こうと、思うこともあってね…。」


 それを聞いても妻の聡美は顔色を1つ変えない。


「それもアリよ。だって、あなたには、そういう創作に詳しい友人もいないし、私も専門外だから分からないから、あなたを助けたくても助けられないのよ…。」


「そうなんだよね。文章の誤字脱字はもとより、作品の構成とか流れ、展開、それに行き詰まった時の相談役なんて誰も分からないからね…。俺にはその手の知識が経験も浅くて弱い上に、誰もアドバイスする人が周りにいなさすぎて辛い。」


 そう言いながら聡美は凄く微笑んだ。


「でも、あなたは凄いわ。工学系で何も分からない中で、今は仕事が暇すぎて苦労しているけど、腐りもせずに、仕事が終わると、独りでズッとキーボードを叩いていたのよ。それだけ、ハンデを背負いながら頑張ったのよ。」


 今は聡美のその言葉が嬉しかった。


「駄目でも終わり方があるよね。この辺で頭を冷やして、誰か、そういう詳しい人がいなければ、俺は自分で頑張ったと思って胸を張りながら、筆を折っても良いかと思う…。」


「そうすると、あなたは、詳しいアドバイスをしてくれそうな仲間ができるまで、完全に作品を削除した後に、充電期間を設けるつもり?」


「うーん、時間はかかるけどね。それも駄目なら、潔く、どこにもアップしないで、今の作品の続きを書き続けて、時を待つかなぁ…。もう、これ以上は誰かの具体的なアドバイスがないと、伸びないコトはよく分かったからさ。」


 そこまで言うと、聡美はそっと俺の頭をなでた。


「あなたは、そこまで無理をしなくて良いのよ。頑張っても、頑張る方法が見つからない場合、やっぱり、どんなに頑張っても空回りしてしまうものね…。」


 もう、長年付き添っている女房だから、そのへんは阿吽の呼吸で分かっている。


「今は4歳の娘もいるし、長男は病気をしていて学校にも行けないから、このへんで潮時なんだろうなぁ…。無理をして交流を求めても、ちょっと作家の界隈は少し距離感の取り方が、他の人とは違う。」


 それを聞いて聡美はクスッと笑った。


「ふふっ。作家さんって、精細に気持ちを書くことが多いから、少し扱いが難しいことも多いのよ。かといって、この創作界隈って怨念や魑魅魍魎も多いから、あなたを見ていて不安になったこともあったの。」


 聡美は、後ろから俺をソッと抱きしめた。


「あなた、お帰り。無理に頑張るのは止そうね。ここからは、頑張れるところまで歩いて、駄目なら胸を張って、私のところに帰ってきてね。無理は禁物よ。」


「とりあえず、コンテストまでは頑張ってみるよ。そこからは、たぶん、自分にアドバイスをくれる人を求めながら、交流をしてひたすら広げていく感じになると思う。まぁ、そんなに無理をせずに頑張るよ…。」



 聡美はしばらく俺を後ろから抱きしめているだけだった…。

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