共同都市、確かに広い。
そして倉庫が多い。
私は倉庫が並んでいる中で一つだけ扉が開いているのを見つける。
――こういうのは、見たくない、見たくないが助けなきゃいけない!!――
嫌な音とかスゴイ気分が悪いし後で精神的にダメージ喰らう事も目に見えているが、私は目を開いてドアを叩いて中に入る。
「――何をしている!!」
目の前の光景に、目をつぶりたいのを堪えて声を張り上げた。
両腕を拘束具で繋がれて、蹲っている。
暴力を受けた痕跡が見える白皙の裸体。
酷い血の香り。
蹴られ、殴られ、酷い音が聞こえる。
――ああ、吐き気がする――
「いだぁ……だす、げ……!!」
必死に声を上げようとしているが、殴りつけられ彼は悲鳴をあげた。
ぶちん
その光景に堪忍袋の緒が切れた。
「何だ? ぼっちゃんも仲間に入りたいのか?」
青年を殴っていた内の一人が私に近づいてくる。
「ん……おい、待て!! そい――いやその御方は!!」
――気づいても、遅い――
「下衆共、覚悟はできているか?」
私は静かにそう言って、近づいてきた男の腕を掴み。
ゴキャン!!
「ギャアアアア!!」
男の肩の関節を外した上で、背負い投げで地面にたたきつける。
全身の痛みと、肩の激痛に悶えて悲鳴を上げる男を蹴り飛ばして、まだ青年を殴っている下衆共に近寄る。
「な、何なんだこの優男は?!」
「馬鹿野郎!! ダンテ・インヴェルノ殿下だ!!」
「は、はぁ?! な、なんであのダンテ……殿下が此処にいるんだよ?!?!」
「……言いたいことはそれだけか?」
見の保身等しか考えてない下衆共に反吐が出る。
下衆の首を掴んで持ちあげそのまま地面に頭を強く叩きつける。
本当はぐちゃりと中身をぶちまけさせたかったが、今はできない、堪える。
私に許しを請う保身しか考えない下衆は顔面を蹴り上げて、そのまま踵落としで地面にキスをさせてやる。
青年を殴りつけている下衆の腹を蹴り飛ばしてやる。
本当は全員同じ目に会わせたいが、今は我慢だ。
あまりやりすぎると、色々と大変なことになる。
蹲るほぼ裸の青年を見る、服らしきものは既に残骸、これでは着れない。
「――」
無詠唱で、家に置いてあるコート手元に出現させる。
震える青年に、私はコートを着せる。
裸よりはいいだろう。
「大丈夫ですか?」
なるべく優しい声と口調で言葉をかける。
「あ、貴方は、ぼ、僕、を……」
「私は、貴方に暴力をふるうつもりも……私が叩きのめした連中がしていたらしい行為をするつもりもないですよ」
私はそう言って、ハンカチで汚れている顔を拭う。
「ダンテ様!! 一体――」
フィレンツォが追いかけて、そしてちょうど今到着したようだ。
声的に、この惨状が何をきっかけに起き、そして私が何をしたか理解したのだろう。
フィレンツォは何処かへと連絡をした。
「――ダンテ殿下、その方は?」
連絡をし終えたらしく、フィレンツォが近寄ってきた。
私は知っているが、それはあくまで前世の知識。
今は使うべきではない。
「貴方の名前は?」
「……え、エリア・ヴィオラ……」
「――確か名簿にありましたね、ダンテ殿下と同じルチェ・ソラーレ学院の一年生です」
「そうですか、エリア。大丈夫では……ないね、治療を――」
「だ、駄目!!」
彼は叫んだ。
「お、怒られる……怖い、怖い……」
「――大丈夫です、私が傍にいます。私はダンテ・インヴェルノ。インヴェルノ王家の名に誓って今、貴方の傍にいましょう」
「……」
私がそう言って、微笑むと、青年は――エリアは少しだけ安心したような表情をした。
治安維持の人達とフィレンツォがやり取りしている間、治安維持所の入浴施設を借りてエリアの体を洗い、治療をしていた。
もちろん、治安維持所で働く治安維持者の確認の元で。
「エリア、痛むところはありませんか?」
「は、い……」
彼は人に優しくされることに慣れていないようだった。
念のため、透視魔術で傷痕などを確認するが、無かったので心の中で安堵の息を吐く。
「ダンテ殿下、宜しいでしょうか?」
フィレンツォに呼ばれ、私が立ち上がろうとすると、エリアは不安げに私の服の袖を掴んだ。
「大丈夫、此処の人達は貴方に危害を加えなません。それに話が終わったら戻ってきます」
「……ほん、とう?」
「はい」
エリアは恐る恐る手を離した。
「お願いします」
「勿論です、ダンテ殿下」
私は部屋を出る。
そして会議室らしき場所へと案内された。
「ダンテ殿下、今回の件についてまずは感謝をいたします」
長らしき壮年の男性が頭を下げた。
「可能でしたら情報を共有したいのです、宜しいですか?」
「勿論です。今回の被害者はエリア・ヴィオラ。ルチェ・ソラーレ学院一年です」
「彼はプリマヴェーラ王国の貴族ヴィオラ伯爵家三男……という事になっています」
「なっている?」
フィレンツォの言葉に眉を顰める。
知らない情報だからだ。
――前世の記憶だと、
「……プリマヴェーラ王国の大臣から今調査している事を少し教えていただきました」
「……」
フィレンツォの発言から、これから語られる事は現状口外禁止ということなる。
「コルネリオ・ヴィオラ伯爵とベリンダ伯爵夫人が両親という事になっていますが、エリア様はどちらにも似ておられず、血を引いているのは父親の方のみと調査で判明したそうです」
「……」
――非常に、非常に嫌な感じだ――
「つまり偽造したという事ですか?」
「その通りです」
「では、母親は一体――」
「エリア様がお生まれになったとされる日の数日前に、メイドが一人亡くなっております」
「……」
何となく察しがついた。
「……そのメイドが母親……?」
「おそらく、ただ身よりがないらしいので詳細には調べられなかったそうです」
「……なるほど、ですが何故そこまで詳細に判明したのですか?」
「ええ、それが……ヴィオラ家の執事のからの情報です」
――ちょっと、待て――
私は明らかにおかしいのに気づいた。
フィレンツォも察しがついている。
「フィレンツォ、プリマヴェーラの――」
「ええ、既にお伝えしております」
「その執事と、エリア様が血縁関係にあるか、もしくは執事の交友関係からの調査を進言いたしました」
「流石だ」
思わず拍手をしてしまう。
「しかし、何故そのような進言を?」
「執事というのは主人の家に尽くす存在です、ですから『家を傾ける』ような発言をした時点で『訳アリ』の可能性が高いのです。もしくは敵対する貴族からの『内通者』か」
「そうなりますね、どちらにせよ。貴族が出生の虚偽報告をし、虐待行為を繰り返していた……」
「フィレンツォ」
「何でしょうかダンテ様」
私は記憶にあるが、それでも口にする。
それが自然だからだ。
「現在この共同都市メーゼに、エリアの『兄弟』はいるのですか?」
「それは――」
「ダンテ殿下、それには私がお答えできます。います」
所長がフィレンツォより先に答えてくれた。
「……」
私はやはりかとため息をついた。