『――この歴史と伝統のある学院において、素晴らしい教職員の方々のご指導のもとで仲間たちと切磋琢磨し、それぞれの夢や目標の実現に向けて全力で取り組んでまいりますことを宣誓し、新入生代表の挨拶とさせていただきます』
宣誓文を読み終えて、やるべきことやり、私は壇上から下りた。
――二度とやりたくねぇ――
そう思いながら椅子に座るが、絶対それは表には出さない。
この18年間プラス前世で苦行に耐える事でそれ位出来るようにはしている。
『そこで前世……美鶴だった頃を加えるのは言ってて自分で悲しくならんのか?』
――気にしないでください、そっとしておいてください――
『う、うむ』
そりゃあ言ってて悲しいが、事実なんだから仕方ない。
入学式が終わり、会場の外へと出る。
外には淡い色の花がついた樹木が並んでいた。
会場に入る前は憂鬱感とかプレッシャーで気にする余裕もなかったが、今こうしてみるととても綺麗だ。
「……チリエでしたか?」
薄い白い花。
けれども淡く様々な色に染まっている。
桜に似ているけども、違う植物。
いつ見ても、懐かしさと同時に寂しさが沸き上がる。
「ダンテ殿下はこの花が好きでいらっしゃいましたよね」
「ええ、私はこの木が――好きですよ」
じっと木を見上げる私に、隣にいたフィレンツォが声をかけてきたので答える。
「……フィレンツォは好きなのですか?」
「私よりも
「あ、それ以上はいいです」
私は即座にそれ以上言うのを止めさせた。
フィレンツォの愛妻家、家族愛故ののろけは正直キツイ。
うざいレベルだ。
学生ではないので、フィレンツォは手紙以外でのやり取りが許可されており、毎日のように母国にいる奥さんと、子ども達と通話をしている。
何度かフィレンツォの奥さんとお子さんにあった事があるが、その時も溺愛っぷりに奥さんがツッコミを入れる程だった。
奥さんに「ダンテ殿下申し訳ございません、夫はいつもこうなるんです」と謝罪された程だ。
フィレンツォの家族と会う度に、奥さんに突っ込まれて地面にめり込むフィレンツォを見る羽目になっているが、当分ないのは安心するものの、何か色々とありそうで怖い。
フィレンツォは私の執事だ。
だから余程の事がない限り、フィレンツォも私と同じく四年間帰国することはない。
家族には父が選出した護衛が付けられているが、何かが起きないと断定はできない。
何かあった時、私はフィレンツォに声をかけて支えてやれるのだろうか――
『安心しろ、そっち方面では何も起きぬ』
――ありがとうございます――
割と嬉しい神様のお墨付きを貰った。
『さて、そろそろ厄介ごとが来るぞ』
――はい?――
『とっても今のお前にとっては赤子の手をひねるようなものだ』
――はぁ……――
神様とのやり取りが終わり、そろそろ寮に戻らないとなと思いながら歩き始めると声が聞こえた。
怒鳴り声。
「どうして私じゃないんだ、コルラード!! 何で学生代表があのような、なよなよとした男なのだ!!」
その言葉に「あ、私の事か」と思うと同時に、嫌な予感がしてちらりとフィレンツォを見る。
フィレンツォは満面の「笑顔」を張り付けていた。
明らかに怒り心頭の空気を纏っている。
「王家のコネを使って代表になったに違いない!!」
「ベネデット様、そのような事をおっしゃられてはなりませ――」
「誰が、なよなよした男ですと?」
フィレンツォが私の腕を掴んで、老齢の執事に宥められている、若い男に近づいた。
私は若干引きずられている。
――めんどくせー!!――
心からそう思った。
フィレンツォと、私の姿を見た老齢の執事はひっと声を上げた。
「これはこれは、エステータ王国のジラソーレ伯爵のご子息ベネデット・ジラソーレ殿ではありませんか」
若い男の顔、若干見覚えがあった。
確か、お邪魔キャラ、絡んでくるという意味合いで。
恋愛のライバルとかじゃなくて、普通に邪魔という意味の邪魔キャラ。
「誰だ貴様は!?」
喧嘩腰の男――ベネデットに対して、フィレンツォは営業スマイルのまま頭を軽く下げてから、口を開いた。
「初めまして、私はフィレンツォ・カランコエ。インヴェルノ王国の後継者ダンテ・インヴェルノ殿下の執事でございます」
ベネデットはそう名乗ったフィレンツォの傍にいる私を見る。
明らかに敵意のこもった眼差しだ。
――おい、こいつ外交問題起こす気か?――
『頭良くても馬鹿だからな』
――成程――
心の中ではどうでも良さげ、表面上は困り顔で私はフィレンツォを見る。
「貴様、王族だからって贔屓してもらっただろう!!」
――まぁ、確かに王族用の屋敷あるけどさ――
と思うだけ。
「いやはや、何と身の程知らずな……父君と、婚約者であるロザリア様が今までの発言とこの光景を見たらどう思うことか」
「な?! 貴様がロザリアと父上の何を知っている」
「少なくともまだお若い貴方様よりは、知っておりますとも」
フィレンツォ、煽る煽る。
周囲には野次馬だらけ。
内心グロッキー、げっそりなう。
早く戻って休みたい。
けれども、エドガルドもこんな風に絡まれたりしたのかなぁと思うと、何か腹が立った。
「お前主人のような世間知らずよりも私の方が世間に詳しい!! それに、知識だって豊富だ!! ハ!! ガラッシア学院で主席で卒業したらしいエドガルド殿下も同じなんだろうさ!!」
ぶっちん!!
私の堪忍袋の緒が切れました。
――はい、こいつぶちのめす、決めました――
『……まぁそうだろうな』
――はははは、人の事馬鹿にする奴には容赦しませんよー?――
――というかエドガルドの事馬鹿にしたんだ、許す程私は甘くねぇ、自分の事ならともかく――
『まぁ、だろうな。だがその前に、助言というか忠告だ』
――ん?――
『くれぐれも殺すなよ』
――半殺しも?――
『駄目』
――プライドずたずたにすんのは?――
『やって良し』
――よっしゃ神様から許可がでましたー!――
「――そこまで言うなら、手合わせいたしませんか?」
私は微笑みを浮かべて口を開いた。
フィレンツォが私の方を見る。
私は彼にウィンクをする、大丈夫だからと。
フィレンツォは苦笑して「ほどほどに」というように笑った。
「手合わせ、だと?」
「ええ、貴方の自信のあるもので手合わせいたしましょう。ブルーノ学長」
「何でしょうか、ダンテ殿下?」
「手合わせできるような場所は何処でしょうか?」
ブルーノ学長は穏やかにほほ笑んだ。
「案内いたしますとも、ですが手合わせの内容で場所を選ぶのが良いかと」
「有難うございます――さて、ベネデット・ジラソーレ殿」
「ご不満なら自分の目で確かめてください、それが良いでしょう?」
「ああ、そうだな!! そうすれば貴様の詐欺が分かるというものだ!!」
自信満々な
――井の中の蛙大海を知らず、お前にぴったりな言葉だろうよ――
――現実を教えてやる、そして後悔するといい――
――エドガルドを侮辱した事を――