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愛しているから~解決したということはつまり?~(side:フィレンツォ)




 ダンテ様と共に、ダンテ様のお部屋に戻ると、私達は硬直しました。


 メイド達が倒れている、物があたりに散らばっている、カップは壊れている。

 エドガルド殿下は毛布をかぶって部屋の隅で震えていらっしゃる。


――一体、何が――

「フィレンツォ、メイドの方達を頼みます!」

 私はメイド達の方を介抱しながらエドガルド殿下に駆け寄ったダンテ様を見ました。

 エドガルド殿下はダンテ様の顔を見ると破顔し、そしてすすり泣くのが分かりました。

「大丈夫です、大丈夫ですから……」

 ダンテ様は何度も言い聞かせているようでした。



 エドガルド殿下をベッドに寝かしつけられたダンテ様は息を吐きました。

「一体何があったんですか?」

 意識を取り戻したメイドの一人にたずねられます。

「エドガルド殿下は、ダンテ殿下がお部屋を出てしばらくの間、とても静かだったのです……静かにお茶をお飲みになられていて、ティーカップが空になったので『お飲みになられますか?』と聞いて『頼む』と言われましたのでお茶を入れようとした途端、急に頭を抱えて、叫び声を上げて……」

「暴れた……と。その時兄上は何か言ってませんでしたか?」

「はい……『私に触るな』と言った内容の言葉を……」

 ダンテ殿下はため息をつかれました。


「……兄上に薬飲ませたりした奴らを拷問したくなった」


「「「ダンテ殿下?!」」」

 メイド達は明らかに普段と異なる言葉を言うダンテ様に驚いています。

 まぁ、そうでしょうね。

「静かにしてください。エドガルド殿下が起きてしまいます」

 私は静かにメイド達に注意しました。

「貴方達は、念のため医療室に行ってみて貰って下さい」

 そう言ってメイド達に部屋を出てもらうと私は息を吐きました。

「ダンテ様、お気持ちは分かりますが普段の貴方様しか知らぬメイド達が聞いたら驚いて当然ですよ」

「いや、すまない。我慢が出来なかった」

 ダンテ様は椅子に腰をかけて、手を組まれました。

「うーん、結構不味い事態かもしれないなぁ」

「どういう意味ですか?」

「療養させるにも、兄上はおそらく医者も触れない位の精神状態に今ある。家族の中の誰かが見ていれば多少我慢できるだろうけど、そうなると私が適役なんだと思うんだ」

「何故?」

「父上と母上に関してはこうなってしまったという自責の念で悪化する可能性もある。第一兄上は苦しんでいる時、私に助けを求めてきた、だから私が適任かなと」

 ダンテ様のお言葉はもっともだ。

「……成程、ですが。ダンテ様、貴方様の留学は後二年後に迫ってますよ? 勉強――……失敬、之は愚問でしたね」

「うん、城の中で、もう私に勉強を教えられる人はいないからね。それ位努力したんだよ? ほら、ほら、褒めてくれないかなぁ?」

「……無理して何度も部屋にぶち込まれたのは何処の何方様でしたっけ?」

「アーアーキコエナイー」



 これ!!

 この無茶する癖をどうにかして欲しいのですよ本当に!!



「分かりました、ではエドガルド殿下の容態を陛下にお伝えしてきます。くれぐれも無理なさらないでくださいませ」

「わかってるよ」

 私はそう言って部屋を後にしました。


 ダンテ様のお言葉をお伝えした結果、エドガルド殿下の治療は城内で行われる事となり。

 また、ダンテ様と一緒にお過ごしになられることとなった。

 独りにしておくのは不味いということもあり、共同部屋でダンテ様と一緒にお過ごしいただくことになりました。

 その間、私はエドガルド殿下の執事も兼任することになりました。


 信任していた執事の後任があんなのだったため、信頼できる私、という事になりました。


 私達と前任の方の苦労を台無しにして!



「ダンテ様、エドガルド殿下に何か異変などはございましたか?」

「いや、全く」

 エドガルド殿下とダンテ様が同室生活を始めて二週間が経過しました。


 エドガルド殿下は今までの反動かよく眠る反面、ダンテ様が傍にいないとすぐ目を覚まし不安定になってしまうようになっていました。


 この時はエドガルド殿下はお眠りになられていたのでダンテ様におたずねしました。


「というか気になったことはその都度伝えているじゃないか」

「申し訳ございません、それでも気になったのです」

「まぁ、いいけどさ……」


「兄上はゆっくりと休んで、誰かに頼るという事を覚えるべきなんだよ。今はそのための時間だと私は思ってるしね」

「……それはダンテ様も同じでは」

「私が無理したらお前が容赦なく休憩しろって、ベッドに叩きつけるだろう?」

「分かってるなら、事前にそうしてください」

「ははは、私なりの信頼だよ」

 ダンテ様のお言葉に私は呆れるしかありませんでした。


――全くもう!!――


「ところで、ダンテ様」

「ん?」

「ダンテ様がエドガルド殿下に何かしてるとかはないですよね?」

 ふと思ったので聞いてみました不敬ながら。

 何かエドガルド殿下とダンテ様のご関係が仲良い兄弟を超えているように見えたので。

 ダンテ殿下は茶が気管に入ったのか何度か咳き込んでじと目でこちらを視ます。

「……フィレンツォ冗談でもそういう事をいわないでくれ。というかお前は私をそういう目で見ていたのか?」

「いえ、エドガルド殿下と同室でお過ごしになられるようになってから、ダンテ様はやけにエドガルド殿下に甘いので」

「んー……なるほど、そういうことか。でも言っただろう、私は傷ついてる兄上が心配で、そしてこれ以上傷つかないでほしいだけなんだ。そして良くなってもらいたい」


「昔から見ていただろう、私は兄上の事が大切なんだよ」


 ダンテ様がそいういうならそういう事にしておきましょうと、私は心の中で納得して頷きました。



「甘い……」

 エドガルド殿下は液体状の薬を飲んでそう呟かれました。

「でも、兄上。それなら何とか飲めるのでしょう?」

「……」

 ダンテ様のお言葉に、エドガルド殿下はこくりと頷かれました。

「本当、厄介な薬を使ったものです、あの輩は」

 私は空になったカップをエドガルドから受け取ると、カートにのせながらぼやきます。



 エドガルド殿下は飲まされていた薬を飲まなくなった副作用で、味覚に異常が発生しました。

 多くの飲食物に毒と錯覚するような苦みを感じるようになったのです。


 その薬――基毒は非常に厄介だったらしく、城の薬師と魔術師も頭を抱えていたのを見て、ダンテ様がちょっと手を出されました。

 あっという間に毒への特効薬が完成なされました。

 執事である私もびっくりです。

 まだエリクサーの作り方も知らないのに。


 更に驚愕するべきはそれは万能薬でもあったのです。

 効果については色々あり過ぎて割愛いたします。

 調合に必要な薬草とか錬成に必要な魔力の割合とかそう言うのを全部書いて、薬もそこそこ作ったので城の薬師と魔術師で作れるようになったら一般向けにも広めて流通させようという話になりました。

 しかし、不思議な味です、甘くて少しチョコとミルクの味のする謎の薬。


――もしやダンテ様天才?――

――いや、それは分かり切ってたことですね――


 と自分にツッコミをいれました。


 薬を飲み始めて、エドガルド殿下の精神は安定してきておりますし、ダンテ様がいなくても、他者と接することが徐々にできるようになってきてます。



「――それにしても、ダンテ様の御力には驚かされますね、昔から」

「そうかな?」

 薬を飲んで、落ち着いたエドガルド殿をのベッドに寝かせ、すやすやと寝息を立てるのを見計らって私は話だしました。

「ええ、そうですよ。初めてお会いしたあの時からずっと」

 私は懐かしそうに話します。

「別に特別なことをしたという感じではないよ、まぁ今回は兄上にしてくれやがった事が許せないから色々やっただけだし」

「……御后様がダンテ様をあまり今回の件に深入りさせないよう陛下に進言したのも納得です」

「母上が?」

 私の言葉にダンテ様は驚かれたようでした。

「流石にエドガルド殿下の事なので母であらせられる御后様が此度の件を聞いた時即座に『ダンテにあまり深入りさせないように、あの子は怒らせたらおそらく大変な事になるから』と」

「……」

 ダンテ様は少しだけ無言になりました。

「母上は他になんと?」

「そうですね……『ダンテはエドガルドをとても大切に思っているし、エドガルドも漸く自分に素直になれたのもあるから二人の時間をなるべく作ってあげて欲しい』とも」

「母上らし……い?」

 御后様のお言葉、一見普通に見えますが、執事経験的に何かを感じます。

 こうびびっと。



 エドガルド殿下の治療が本格的に始まって二ヶ月が経過しました。

 薬の効果もよく、また周囲の環境も落ち着いた環境であることもあってエドガルド殿下はダンテ様がいなくとも新しい執事とメイドの付き添いの元、医師の診察を受けたり、外出することができるようになってきました。


 それと、エドガルド殿下の「元執事」の件もあり、執事とメイド等の身辺調査がかなり入念に行われましたた。

 もちろん私も、まぁ何もないんですけどね!!


 代々続いてきたカランコエ家の陛下たちからの信用を私の代で終わらせる気はありませんので!!


 ただ、最初のエドガルド殿下の執事一家は無関係なのが分かったが親類が起こした事の大きさから、首都からは追放されることになった。

 無関係なのに、親類の所為で信用を失うとは可哀想でならない。

 その結果、アングレカム辺境伯の娘が嫁いだ先の下働きをするという仕事をする事になったそうだ。

 周囲が監視できる環境でもあるので、まぁ何かあったらその時は、という感じでした。



 今はそれよりも別の問題が起きています。

 エドガルド殿下がダンテ様との同室生活を辞めるのを、ダンテ殿下が留学するまで拒否していること。


 やはり、エドガルド殿下は――





 ダンテ殿下を愛していらっしゃるから、女神インヴェルノに選ばれなかったのでしょう。

 実の弟ダンテ様しか愛せない運命をしっていたこらかこそ、選ばれなかった。

 だから、病んでしまわれたのでしょう。


 ダンテ殿下は――おそらく、そのお気持ちを救いになられた……


 ん?


 それはつまり――??


 私は混乱しましたが、ダンテ様があからさまな行動をとってないので言わないことにしました。







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