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二人で過ごす~気になる事多数~




「ダンテ様、エドガルド殿下に何か異変などはございましたか?」

「いや、全く」

 エドガルドと同室生活を始めて二週間が経過した。

 今までの反動なのか、彼はよく眠るようになったが、私が傍にいないとすぐ目覚めて不安定になってしまうため、現在私は部屋での自主学習の時間が増えた。


 エドガルドが眠っているのを確認したフィレンツォが確認するように聞いてきたので私は別に何もないという風に答える。


「というか気になったことはその都度伝えているじゃないか」

「申し訳ございません、それでも気になったのです」

「まぁ、いいけどさ……」

 フィレンツォが心配する理由も分かる。


 エドガルドは長期間毒を摂取させられ続けていたのだ。

 体を蝕む毒ではなく心を蝕む毒を。

 本人は何も知らず、摂取させられていた。

 違和感などを誰かに言うという考えを取り上げられて。


「兄上はゆっくりと休んで、誰かに頼るという事を覚えるべきなんだよ。今はそのための時間だと私は思ってるしね」

「……それはダンテ様も同じでは」

「私が無理したらお前が容赦なく休憩しろって、ベッドに叩きつけるだろう?」

「分かってるなら、事前にそうしてください」

「ははは、私なりの信頼だよ」

 フィレンツォは呆れているようだが、事実だ。

 私は美鶴だったころから、少し無理しがちな所があった。

 今もその悪癖は治っていない。

 だから、それを言ってくれている、そして無理にでも休ませてくれるフィレンツォにある意味「甘えている」のだ。



――でも、あんまり甘えてるのも悪いし、この悪癖治さないとなぁ――

『確かにそうだな。フィレンツォに頼れない場面で体調を……いや、今のお前それより……』



 神様の分かるようでわからない発言を受け止めながら、お茶を口にする。

「ところで、ダンテ様」

「ん?」

「ダンテ様がエドガルド殿下に何かしてるとかはないですよね?」

 フィレンツォからの予想外の発言に液体が気管に入り、思わずせき込んだ。

「……フィレンツォ冗談でもそういう事をいわないでくれ。というかお前は私をそういう目で見ていたのか?」

「いえ、エドガルド殿下と同室でお過ごしになられるようになってから、ダンテ様はやけにエドガルド殿下に甘いので」

「んー……なるほど、そういうことか。でも言っただろう、私は傷ついてる兄上が心配で、そしてこれ以上傷つかないでほしいだけなんだ。そして良くなってもらいたい」


「昔から見ていただろう、私は兄上の事が大切なんだよ」


 フィレンツォを見て私はきっぱりと言い切ると、納得したようだった。





 フィレンツォに実は嘘を少しついている。

 一週間くらい前から、エドガルドの甘え方がこう、うん、まるで恋人に甘えるようなアレになってる。

 人前では絶対やらない、二人きりの寝る前に、私に口づけを強請る。


 だが、神様の言いつけ通り、現時点で口には絶対私はキスをしないと誓っている。


 最初は何故とエドガルドは泣きそうになっていたが、「大切ですから」と、口以外のアウトにはならなそうな箇所、額や頬にキスをしたら満足してくれた。


 ちなみに、かなりピンチだったのが、三日位前から。

 露骨に体に触れて欲しがるようになった、まぁぶっちゃけると肉体的な繋がりをエドガルドは欲しがるようになった。


 これも、神様から「セックスはアウト」ときっぱり言われているので、何とか説得しつつ、寝間着をちゃんと着用している状態で抱きしめるというので妥協してもらった。


 両方共、フィレンツォに言える内容ではない。


 言ったらエドガルドを裏切ることになるので、それは絶対しない。



『……』

――神様、何か?――

『んー? いや、特に何もないぞ?』

――何もないのに何故?――

『あー……うん、まぁ、今は気にするな』

――わけがわからないよ――



 何も言わなくてもなんか時間止めた挙句、特に何も言わないようで、何か意味深発言をする神様。

 いや、マジなんなん。

 地味に怖い。





「甘い……」

 エドガルドは液体状の薬を飲んでそう呟いた。

「でも、兄上。それなら何とか飲めるのでしょう?」

「……」

 私の言葉に、彼はこくりと頷いた。

「本当、厄介な薬を使ったものです、あの輩は」

 フィレンツォは空になったカップをエドガルドから受け取ると、カートにのせた。


 エドガルドは飲まされていた薬を飲まなくなった副作用で、味覚に異常が発生した。

 多くの飲食物に毒と錯覚するような苦みを感じるようになったのだ。



 食生活などで味覚障害になるのは嘗て美鶴だった時聞いたことはある。

 薬でなるというのはあまりなじみがなかった。

 激辛好きで味覚障害になったり、ストレスで味覚障害なった知り合いは見た事はあるが。


 とか、考えていたら、ある意味エドガルドの味覚障害もストレスも関わっているのではないかと思った。

 まぁ、美鶴だった時の世界と、この世界は似ているようで色々と違うので比べても仕方ない。



 で、その薬――基毒は非常に厄介だったらしく、城の薬師と魔術師も頭を抱えていたのを見て、私がちょっと手を出した。

 いや、神様に言われたのもあるけど、なーんかその毒は一族に伝わる秘薬的な物で早々治療できる薬などできるかと馬鹿が抜かしたので――調合しましたとも作りましたとも。

 成分とかそういうのは割とさくっとできたんだけど、魔力込めながら、味どうしようかなぁーと思って飲みやすい味を思い出したら、その前の世界で言うミルクココアの味になりました。


 以上。


 そしてびっくりするくらいの万能薬でもあった。

 効果については色々あり過ぎて割愛。

 調合に必要な薬草とか錬成に必要な魔力の割合とかそう言うのを全部書いて、薬もそこそこ作ったので城の薬師と魔術師で作れるようになったら一般向けにも広めて流通させようという話になった。

 その、味に関しては……うん、私が最初にミルクココア味で作ったから……他のもそうなってしまったっぽい。


 まぁ、苦い薬よりはいいかと現実逃避をして置いている。



 薬を飲み始めて、エドガルドの精神は安定してきているし、私がいなくても、他者と接することが徐々にできるようになってきている。

 まぁ、だからと言って、夜一人でベッドに寝るようにはなってくれないんだけどねー。





「――それにしても、ダンテ様の御力には驚かされますね、昔から」

「そうかな?」

 薬を飲んで、落ち着いたエドガルドを彼のベッドに寝かせ、すやすやと寝息を立てるのを見計らうようにフィレンツォは話だした。

「ええ、そうですよ。初めてお会いしたあの時からずっと」

 フィレンツォは懐かしそうに話す。

「別に特別なことをしたという感じではないよ、まぁ今回は兄上にしてくれやがった事が許せないから色々やっただけだし」

「……御后様がダンテ様をあまり今回の件に深入りさせないよう陛下に進言したのも納得です」

「母上が?」

 フィレンツォの言葉に私は驚いた。

「流石にエドガルド殿下の事なので母であらせられる御后様が此度の件を聞いた時即座に『ダンテにあまり深入りさせないように、あの子は怒らせたらおそらく大変な事になるから』と」

「……」


 否定できない。

 実際ブチギレて美鶴の時クソ野郎と口論になって殺された前科が私にはある。

 今回は殺されない代わりに、関係者を多分えげつない方法で感情のまま処刑してる気がする、他人事のようだけども。


「母上は他になんと?」

「そうですね……『ダンテはエドガルドをとても大切に思っているし、エドガルドも漸く自分に素直になれたのもあるから二人の時間をなるべく作ってあげて欲しい』とも」

「母上らし……い?」

 一見すると変哲の無い言葉のように見えるが、何か私には引っかかるものがあった。

 が、それが何なのか分からなかったし、何となく聞くのがちょっと怖くてやめておこうと思った。



『まぁ、今は気にするな、後で分かる』



 不意に聞こえた神様の声が私を余計に不安にさせた。






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