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実弟しか愛せない愚かな男(Side:エドガルド)




 自分が祝福を受けずに生まれた意味が分からなかった。

 自分より王としてふさわしい存在が産まれてくるのだろうと、私は諦めた。


 ならば、補佐として王となるであろう、自分の弟か、妹か、どちらか分からないが王となるであろう父と母の子の為に、勉強に励んだ。





 産まれてきた弟を、ダンテを見て私は、自分が選ばれなかった理由を理解した。

 自分はダンテ以外を「愛せない」から選ばれなかったと。


 だから、憎くてたまらなかった。

 どれだけ愛しても愛しても愛しても愛しても――



 私は弟に、ダンテに愛されないのだ。



 傍にいればいる程苦しいのに、その姿が見れないと更に苦しくてたまらなかった。



 愛している。

 憎い。

 愛している。

 憎い。

 愛してる。

 妬ましい。

 愛している。

 愛してる。



 誰がこんな思いを語れようか。

 言えるだろうか。

 実の弟を愛して、その弟以外を愛せないと、心が、魂が叫んでいるのを誰に言えるだろうか。

 言えない。

 誰にも。



 だから、父上と母上には、後継者になれるダンテが羨ましい、嫉妬してしまって苦しいと言ってダンテと会わない様にしてもらった。

 けれども、会えないというのは苦しいから、時折ダンテの様子をのぞき見に行ってしまった。



 母上譲りの美しい氷のような銀色の髪。

 父上の後継者であり、女神から祝福されている証である、どんな黄金よりも輝く美しい黄金の目。

 雪の下に眠る母なる大地に愛されたような褐色の肌。

 今は愛らしい、けれども成長すれば母上のような――否、母上以上に美しくなるであろう、顔。



 愛してる。

 愛している、愛している、愛している、愛している、愛している

 だから――


 憎い。

 憎くてたまらない。


 お前は、私など気にも留めないのだろう?

 それが、憎くてたまらない。


 その感情全てが、苦しくてたまらなかった。





 そんな苦しい日々はダンテがまだ12になる前、突如終わりを迎えた。

 私がダンテの稽古をのぞき見していると、ダンテは突如動作を止めて、私の方に駆け寄ってきた。


『兄さま!!』

――?!――


 今までなら、気づくこともなく、稽古などに集中していた。

 傍にいる執事が私に気づいて声を上げるまでこちらを見もしなかったのに、突如私の方へ駆け寄ってきたのだ、ダンテが。


 まだ12歳になる前の子どもなのに、美しく整った顔立ち。

 細い首筋。

 美しい、長い銀の髪が首元にかかる様は酷く煽情的に見えた。


 ぞわりと醜い「欲」が顔を出した。

 それを知られたくなくて、私は声を張り上げた。


――私に触るな!!――


 手を思わず叩いてしまった。

 困惑する表情で、私が叩いた手を撫でながら、ダンテは私に近づいてきた。


『兄さま、どうして私と話してくださらないのですか?』

――お前と話すことなど何もない!――

『では何故私の様子を見に来るのですか? どうしてですか?』


 ダンテの言葉に、私は何も言えなかった、言えなくなった、言ってしまいたかった、けれどもそれはダメだと理解しているから言えなかった。

 何も。


 実の弟であるお前を愛していると、誰が言えようか。



 それ以降様子を見に行く度に、ダンテは即座に私に気づき、私に駆け寄って言葉を交わすことなどを求めた。

 止めればいいのに、止められなかった。



 本当は、話がしたかったから。

 触れたかったから――





 私が18歳になり留学することになった、私は父母に男と女、どちらに焦がれるかなど話していない、分からないで通した結果ガラッシア学院に入学することとなった。


 ダンテを見送りには呼ばないでほしいと頼んだ、私は行くのが辛くなるから。


 出発日の早朝、私は早く目が覚めてしまった。

 憂鬱な状態で支度をしているとノックをする音がした。

――誰だ――

 そう問えば、扉が開き――ダンテが姿を見せた。


『兄様』

――!?――


 私は、来るとは思わなかったのだ、まさかダンテが私の部屋に来るとは。

 嬉しい以上に、苦しさが勝り、思わず突き放すように声を出す。


――何の用だ……――

『……お父様から、私は見送りに出ない様にと言われましたので』

――ならば何故来た――

『見送りに出ないよう言われましたが、挨拶をするなとまでは言われませんでしたから』


 ダンテは頭の回転が速いと聞いている、つまり言葉の抜け道を見つけてきたのだ、思わず舌打ちしてしまった。


『四年も兄様と会えないのに、挨拶もできないのは寂しいのです』


『兄様が私をどう思っていようと、私にとって兄様は大切な存在なのです』


『兄様、私は兄様の帰りをお待ちします。手紙も出します。どうか、お体に気を付けて、善き四年間を』


 ああ、なんて、残酷なことをするのだ、ダンテ。

 これが私の罪か?


 気がつけば部屋を出ようとするダンテの腕を掴んでしまっていた。


『……兄様?』

――……何でもない――

『……では、失礼いたします』


 部屋を出ていくダンテを、私は呆然と見送った。





 扉を閉じ、蹲り、泣いた。

 ああ、お前は残酷だ、何も知らないからこその優しさが私を苦しめる。



 お前と離れたくない傍にいたい。


 出発の時刻など、永遠にこなければいいと、思ってしまった。







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