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兄の帰国と16歳の誕生日~効かぬ毒を飲み干し、演じる~




 兄が――帰国した。

 相変わらず、私は会わない方がいいとの事なので、帰国歓迎のパーティなどには参加せず。

 でも術は禁止されてないので、ちょっとだけ遠見の術等で兄の姿を見た。



 四年ぶりに見た兄の姿。

 凛々しく、父に似た顔立ち、生真面目そうな雰囲気を纏っているように他の人には見えるだろう。

 これは。

 兄の執事や、父と母もそのように見ているのが分かる。


 私には、兄が酷く歪に見える。


 自分が言うのもなんだが、兄は私同様取り繕うのが非常に得意ようだ、執事や両親などにさえも悟らせない程に。

 どう例えたらいいのか分からない。

 ただ、手紙から読み取った大部分が正しいことが分かる。


 四年という留学生活、学院生活は――


 兄を苦しめるものだったのだろう。

 兄を歪にするものだったのだろう、拗らせるなんて可愛いものじゃない。



 術で見るのをやめて、ふぅと息を吐く。

 ちらりとこの世界の暦表――いわゆるカレンダーを見る。

 私の誕生日はこの世界の冬の終わりと春の始まりの両方を表す三月。

 今月のそして二日後。

 二日後、私は16歳になる。

 そしてその夜――


 兄は私を犯しに来るのだ。





「「「「ダンテ殿下、おめでとうございます!!!!」」」」

 そして16歳の誕生日。

 国民達に盛大に祝われながら城の周囲を馬車で回る。

 一応この世界には既に、魔力等を利用する自動車のような乗り物があるのだけれども、昔それに乗った時に、王族に危害をくわえようとした連中がそれに分かりづらい細工をして、乗る寸前城の魔術師が気づいて難を逃れたということもあり、魔術耐性等が強い幻馬の馬車を使用することに今はなっている。

 なので、王族の移動は基本幻馬の馬車での移動になる。


 微笑みを浮かべて、国民に手を振ると、国民はより手を振って声を上げる。



 誰にも気づかれない。

 私の不安は。


『まぁ、仕方あるまい』

――分かっています――


 神様以外、気づかない。


 我ながら取り繕う、心を隠す事に関しては、ダンテになってからより得意になったなと自嘲したくなる程だ。


――まぁ、仕方ないんだけどねー……――





「ダンテ。16歳の誕生日おめでとう。どうかこれからも健やかに成長してね」

「16年というのはあっという間だな、ダンテ。おめでとう」

「父上、母上、有難うございます」

 城の中での祝いの宴。

 父と母に、お祝いの言葉をもらう。

 微笑みを浮かべながら、宴に招待された貴族の方々と挨拶をする。


 ぶっちゃけると、いまもこれが心の其処から疲れる。

 パレードの方がまだいい、何もしゃべらず微笑んで手を振ってればいいのだから。


 面倒くさい。

 やりたくない。

 だるい、しんどみ。

 元根っこが人見知りのコミュ障には結構辛い。


『未だ慣れんのか、仕方ない奴だな』

――すみませんね!!――


 神様の言葉に内心苛立つが、表には出さない。


――頑張ってるぞ、私――


 色々と心の奥底で考えていると、騒めくのが聞こえた。

 父と母も信じられないものを見ているような顔をしている。



 これは、覚えている。

 覚えている。

「――誕生日おめでとうダンテ」

 優しい笑みを「張りつけた」兄が、そこにいた。

 隣には、兄の執事がいる。

 彼は飲み物が入ったグラスを乗せたトレイを持っている。

 グラスは四人分。

「――有難うございます、兄上」

 私は何でもないように微笑んで兄に礼を言い、頭を下げる。

「エドガルド……」

「どうしたのです、父上?」

 兄は「何でもない様に笑って」父を見る。

「――帰国前に、ダンテの誕生祝になる飲み物はないかと思い少し買い物をしました。酒精のないダンテ好みの赤果実のジュースを見つけまして」

 これが、兄が父と母との会話での口調なのだろうと、思った。

 この口調がおかしかったら、父と母は気づくからだ。

「エドガルド、どうしてダンテの好みを知っているの?」

 母が疑問を口にする。

 そう、それは正しい反応だ。

 だが、兄はおそらくこう答えるだろう。

「ダンテから手紙をもらっていました、手紙に書いてあったのです」

 兄は何でもない様に答えた。


 ここは違う。

 覚えている。

 ゲームのエドガルドは「祝いに人気のジュースを買いました、とても美味だったのでダンテにも飲ませたいと思いまして」と答える。

 ただ、次の行動は分かる。


 兄が先にグラスを一つ手に取り、口にした。

「ええ、良い味です。ダンテも飲んでみるといい」

「有難うございます兄上」

 私はグラスの一つを手に取り口にする。



 心の中で眉をひそめた。

 特定の人物にしか効果がない薬物が入っている。

 かなり高度の隠蔽魔術を使っている、これなら毒見役も気づくわけがない。

 正直言って、兄の隠蔽術等は城の医療トップと術師トップの二名でも気づかないだろう。


 ああ、確かに四年という学院生活は兄の能力を素晴らしいものにした。

 けれども。

 内面の歪みをより悪化させた、最悪のものだろう。



 私は素知らぬ顔で飲み、言う。

「ええ、父上、母上。とても美味しいですよ」


 兄には悪いが「この程度の薬物」もとい「毒」は私にはもう効かない。

 それにもし効果がでた場合、どれくらい時間がかかるかも分かる程度ではある。


 私の表情に安心したのか、父と母もグラスを手に取り口にする。





『それでいい、次はどうすればいいのか分かっているな?』

――薬が効いたフリをする、そして疲れたと言って自室に戻る、でしょう?――

『その通りだ』


 神様の言葉で、自分の次やるべき行動を確認させられる。





 宴の時間が経過――基薬が効いているなら、効果が出始める時間。

 私は口を押えて「欠伸」をする。

「ダンテ? どうしたの?」

「すみません母上……少し眠くなってきたので休んでも良いでしょうか……?」

「そうね、疲れたでしょう」

「お前は無理をよくするからな、それが今来たのかもしれん。なら早めに休むと良い」

「有難うございます……」

「ダンテ」

「何でしょう……兄上?」

「『良い夢』を」

「有難うございます……」

 そう答えて、私は少し「ふらつき」ながらフィレンツォに補助されつつ、自室に戻った。



「ダンテ様、お疲れですね……」

「ああ、疲れたよ……うん、だからゆっくり寝たいんだ……」

「――分かりました、お休みなさいダンテ様」

 フィレンツォが居なくなったのを確認して、私は目を閉じた。





 自分を見つめる視線を騙すために「眠っている」事を演じはじめた――







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