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兄の事~四年後を、見据えて~





「――それは、本当なのですか?」

 フィレンツォの言葉に私は目を丸くして確認する。

 フィレンツォは静かに頷いた。



 確かに留学すると、母国に戻ってこれるのは四年後になる。

 その間の休みの期間も原則、身内に何か起きるなどない限り留学場所で過ごすことになる。

 父と母は留学先に行くことは可能だが、王族で、しかも次期国王になる私がそこに行くことは現在できない。


 行けるようになるのは、留学して以降。

 次期国王が他国に行けるようになるのは、共同都市アンノに留学してからではないといけないのだ。

 もちろんそれは共同都市アンノもそうだ。



「……それを聞いたのは?」

「私だけですおそらく。エドガルド殿下に呼ばれて、二人きりの時に」

「……兄様の御付きは?」

「その時、外へ出ておりました」

「……何を兄様と話したのですか?」

「エドガルド殿下は、初めてダンテ様の事をたずねてきました」

「私の……」

「陛下と御后様がダンテ様の事を話そうとすると、エドガルド殿下は昔は酷い癇癪を起したため、陛下と御后様は、エドガルド殿下といる時はダンテ様の話は避けておりました。他の者にも避けるように命じておりました」


 覚えている。

 赤ん坊の頃の、あの視線を。


「本来は、ダンテ様に御話すべきことではないでしょう、エドガルド殿下の事を思えば、ですがどうしても私は話すべきだと思いました」

 フィレンツォの言葉。

 彼がそう感じたなら、そうなのかもしれない。

 それに神様は何も語らない。

「兄様は、何と言っていましたか?」

「……自分に弟か妹か生まれると知って嬉しい反面、怖かったと」

 その意味が理解できた。


 自分の扱いが、変わるのではないかと、子ども心に兄は、怖かったのだろう。

 両親が自分に無関心になるのではと。


「生まれてきたダンテ様の寝顔を見た時、嬉しい、可愛い、愛おしい――けれどもそれ以上に憎いと思ってしまったそうです」

「……」


 寝ている時に見に来ていたのは初めて知った。

 ただ抱いた感情には、そうだろうなと思った。


 あの憎悪のこもった視線は赤子だからこそ恐ろしくて泣き出してしまったから。


「――それは仕方ないと、思います。兄様はとても不安だったでしょうから」

 私はそう答えた。

「ダンテ様は本当にお優しいですね」

 フィレンツォは安心したように言った。

「陛下と御后様がダンテ様がお生まれになった後も、自分を蔑ろにしなかった時は安心したとおっしゃられておりました、けれども、どうしても弟であるダンテ様への憎しみが消えないと嫉妬が消えないと――」


 それも、仕方ない事だ。


「それも、仕方ないと思います」

 兄には「選ばれなかった」という事がある。

 それが今もその心を苦しめているのだろう


「……何故、私に四年程会えない事を、兄様は嘆いたのですか?」

 私の問いかけにフィレンツォはしばらく無言になった後、口を開いた。

「エドガルド殿下は『自分が恐ろしい』と『自分の中に何かがいる』、『自分の中にある感情が恐ろしい』と」

「それは……」

「おそらく、ダンテ様だけがそれをどうにかできるのでしょう。エドガルド殿下が恐れている何かをどうにかできるにはダンテ様だけなのでしょう、だからこそ――四年も会うことができない事に怯え、嘆いているのです」

 フィレンツォから伝えられた兄の事を、私は四年先の私の16歳の誕生日の夜起きるであろう内容と嚙合わせる。


――おそらく、それが兄が私を強姦しようとする要因になっているはず――

――もしかして……いや、決めつけるのは早すぎる、時間が必要だ――


「兄様は――」

「もう出発されたと思われます」

「……」

 フィレンツォの言葉に息を吐く。

 四年間の間に、兄に何があるのか分からない。

「フィレンツォ、兄様が通う学院は?」

「ガラッシア学院です」

「男女共学の学院……ですよね?」

「はい」

 フィレンツォの言葉に私は思案する。





――えーと、こっちでもちゃんと学んだけど、確か共同都市メーゼには三つの学院があって、ルチェ・ソラーレ学院という男子生徒のみの学院と、キャロ・ディ・ルーナ学院っていう女子生徒の学院、それと共学のガラッシア学院の三つがあるんだったよね?――

『その通りだ、うむ覚えているようだな』

――元の頭は良くなかった気がするけど今はちゃんと覚えてますよ……――


 若干憂鬱になりながら神様に言う。

 そう、美鶴の時の私は頭はあまり良くなかった、というか覚えるのが苦手だった。

 それでも何とか頑張ってきたのだ。

 まぁ、今は頭の作りがやはり違うのか物を覚えるのが得意……っぽいのだが、どうしても昔の癖が抜けず、そう言った物事に関しては自分の発言に未だに自信をもっていう事ができない。

 まぁ、それを表に出すのは神様との会話の時位だけどね。


――私は女子オンリーの学校以外は入れるんだよなぁ、祝福のおかげで相手の性別と自分の性別ある意味無視できるし――


 そう、王族にとって留学はある意味伴侶探しも含まれている。


『だがお前が留学、基入学する学校はルチェ・ソラーレ学院――男子のみの学校だろう?』

――まぁね、そうじゃないと彼らには会えないんでしょう?――

『その通り』


 おそらく伝わっているが、私は既にフィレンツォに対して女性より男性に何か惹かれると伝えているし父母にも伝わっている。

 この世界は、比較的性別は恋愛の障害にはならない、恋愛感情を持たない人達への理解もそこそこある。

 だが、良いだけの世界ではないのは分かってる。

 見えない所で虐待や犯罪行為等があったりするし、身分でもめたりすることもあるらしい。

 国同士の仲が良い事は救いだが……こういう問題のがあるのが生々しい。


『さて、エドガルドが帰ってくるまでの間も気を抜くなよ、後手紙を出すと言ったのだから出すように』

――分かってます、分かってますとも!――


 兄が戻ってくるまでの間に、私も色々とやるべき事はある。

 自分の望む場所に至る為に、己を磨くことを忘れてはならないのはよっく理解してる。


 攻略内容とか色々あやふやだが、勉学や体術などその他諸々を怠ると痛い目を見るのはゲームで嫌と言う程味わった。

 後は、人と関わる事も重要だ。


 幼い頃は城の外には出れなかったが、今はもう出ることができる。

 必ずフィレンツォや護衛が付き添うが。

 それでも、国民と関わって、話を聞いたり、ちょこちょこ問題を解決したりそういった行動もしている。



 兄が戻り――そして行動に出るまであと四年と少し。

 それまでに、私は可能な限り自分を磨かなければならない。

 次期国王としても、一人の存在としてもだ。


 それでも不安はある。


『エドガルドの事か?』

――そうよ、だって……四年の間に私を強姦しようと拗らせるって相当何かがあったからじゃない?――

『……まぁ、これは今言うべきことではないな』

――ちくせう――

『まぁ、そう言うな。それに私は、お前なら私の助言がそれほどなくとも――』


『エドガルドに救いの手を差し伸べることができると思っているから言わないのだ』


 信頼しているような声、同時に私を見極めるような声。


――期待とか信頼されるの、凄く苦手なんだよなぁ本当……――

『まぁ、そう言うな』


 少しばかりめげそうになる私に、神様はからからとした声で言う。


『お前が間違いを知らずに進もうとしているなら私は毎回口を出している、だがそうではないだろう。お前はお前に自信を持て、美鶴。いやダンテ』

――はぁい……――


 私は、神様の言葉に自信なさげに返した。







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